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裏切りものと協力者と

「なんで! こんな所に! あんた達が! いるのよーっ!」


 ベルシャが部屋の中のあらゆるものを掴んでは僕らに投げつけてきた。


「出てけーっ!」


 枕は良いけど、固いものは勘弁!

 ガンと頭に何かぶつかり、その拍子にけたたましいベルの音が響いた。


 ジリリリリリリリリリ


「ああ、もううるさいっ!」


 ヒステリックな声でベルシャが言う。


「自分で投げたんだろっ!」


 僕は拾い上げた目覚ましのスイッチを切った。

 ホッとしたもの束の間、部屋のドアが勢いよくノックされる。


「どうしましたかベルシャ様!」


 扉を開けて衛兵が飛び込んできた。

 ヤバいっ。

 僕が身構えるより先に、衛兵の頭をフレドさんの膝が捉えていた。


「申し訳ありません」


 仲間が増える前に退散した方が良さそうだ。

 僕らは開いた扉から廊下へと飛び出した。

 

「ちょっ……待ちなさいよあんた達ーっ!!」


 さっき出てけって言ったくせに!

 騒ぎを聞きつけた衛兵が複数人、こちらに向かってくる。

 フレドさんが先頭に立って一人ずつ相手を蹴散らしていく。

 

「流石……」


 っていうか今、一番強いのフレドさんだよな……。

 僕は剣に手をかけながら、鞘から抜くことができないでいた。

 

「無理はするな。今は爺さんに任せとけ」


 シェズが小さい声で言った。

 倒れた衛兵の鎧に刻まれた紋章を見たフレドさんは、なるほどと顎を撫でた。


「王家直属の近衛兵団の物ですな」


「月の国はまた魔王に支配されてんのかよ……」


 シェズは呆れた様子で言った。

 

「待ちなさいよ、あんた達!」


 後ろからベルシャが追いついてきた。

 僕らが逃げるより先に前方に穴が開き、中からウッドマンが出てきて行く手を塞ぐ。

 こっちなら遠慮はいらないっ。

 僕は剣を抜いて、関節部を狙って剣を振るう。

 腕が一本無くなった所で脅威は変わらない。とにかく相手が動けなくなるまで、攻撃を続ける……!


「いいぜ、誠。悪くない動きだ」


 相手に意思がない人形なら……ね。

 通路の奥から衛兵が五人、駆けつけてきた。

 そして、その奥に、小さな人影が立っているのが見えた。


「……思ったより早く来たんですね」


「エミカ!」


 シェズが叫んだ。


「ごめんなさい、シェズ様。だけど今は大人しくしていただきますよ」


 エミカはにっこりと笑いながら指を向けた。

 衛兵たちが剣を抜いて襲い掛かってくる。

 

「や、やめろ!」


 僕は慌てて剣で受け止める。

 重い。

 弾かれた剣を押しとどめるのに精いっぱいだ。

 

「誠……!」


「シェズ様……こうなったらどうしようもないですよ。解ってましたよね?」


 エミカは口の両端を釣り上げた。

 

「誠様!」


 フレドさんが飛び出して衛兵の拳に手刀を繰り出した。

 

「ベルシャさん、こっちにウッドマンを差し向けてください」


 エミカがフレドさんを指して言った。

 ベルシャは一瞬呆然としていたが、名前を呼ばれた事で意識が戻る。


「何であんたが命令してんのよ!」


「まおー様の脅威を排除するのがあなたの仕事じゃないですか。さぁ、早く」


 冷たい視線でエミカが言った。

 ベルシャは唇を噛んでウッドマンの動きを指揮した。


「くっ……この固さ、素手では流石に荷が重いですな……」


 フレドさんの攻撃が通らないのを確認すると、ウッドマンはただただ前進してくる。


「誠様は相手が人間では攻撃できず、フレドさんは素手で魔物を制することが出来ず……フフフ、あっけないもんですねぇ」


 僕達は衛兵たちに取り押さえられた。

 そのまま地下牢まで連行され、鉄格子の中に押し込まれる。

 

「しばらくここで大人しくしていてください」

 

「エミカ! エミカぁぁぁぁぁっ!」


 シェズが大声で叫んだ。

 名前を呼ばれた相手はチラリとこちらを見るとそのまま扉の向こうに消えていった。


「……何なのよ、あれ」


 エミカの背中を見ながら、ベルシャが呟いた。


「あんた達、仲間割れしでもしたの?」


 呆れるよう顔でベルシャは言った。


「君、エミカが魔王に協力してたの知らなかったの?」


「何それ。知らない」


 ベルシャの目が丸くなる。


「実はエミカが魔王に協力してて……それで……」


 僕がオルトロックでの出来事を話すと、ベルシャはただただ唖然としていた。


「魔王様、アタシには何にも言ってなかったけど……」


「敵を騙すにはまず味方から、っていうしな。ははは」


「騙されてたのそっちじゃない」


 皮肉を言ったつもりがそのまま返されて、シェズは言葉を失った。

 ベルシャが呆れた目でこちらを見ていた。

 

「さっきからペラペラ喋ってるけど、アタシ、あんた達の敵なのよ?」


「……そういえばそうだっけ」


 忘れていたわけじゃあ無いんだけど……。


「なんというか、つい安心してしまったというか……」


 僕は苦笑いをしながら答える。


「はぁ……全く、調子が狂うわ」


 ベルシャは髪の毛をかきあげながら背中を向けた。

 壁にかかった檻の鍵を手に取ると、そのままこちらに向き直ると鉄格子の隙間から鍵を投げ入れる。


「ベルシャ……?」 


「あっ、手が滑っちゃったー」


 わざとらしく棒読みで言うと、こちらから視線を逸らす。

 助けて……くれるのか?  

 僕は鍵を拾い上げ、牢の鍵を開けた。


「ありがとう……」


 僕が言うよりも早く、ベルシャは歩き出す。

 後を追おうとすると手で遮られた。

 思わず立ち止まる僕の体を壁に寄せて、唇に人差し指を立てる。

 ベルシャは一人で隣の部屋に入った。耳を澄ますと声が聞こえる。


「ちょっと」


「どうなされましたか、ベルシャ様」


 男の声が聞こえた。看守部屋だろうか。

 影に隠れつつ様子を伺う。

 衛兵が椅子に座っていた。


「勇者の仲間がまだいるらしいわ。あんたも捜索に加わりなさい」


「え、しかし牢の守りは……」

 

「こっちはウッドマンを配置するわ」


 言いながらベルシャはウッドマンを二体呼び出した。

 ガンガンと手の木槌を鳴らして看守を威嚇する。

 衛兵は敬礼をして、慌てて部屋を出た。

 僕らの前に戻ってくると、くいと親指を出口に向ける。

 

「まずはアタシの部屋に戻るわよ」


 そう言ってベルシャは口元に笑みを浮かべた。



 さっきの笑顔、それが罠だったことになんで気が付かなかったんだ……。

 唇を赤く染められながら、僕は少し、いやかなり後悔していた。


「なんでまた女装!?」


「変装は隠密行動の基本でしょ。ほら喋るな、ずれる!」


 言いながらルージュで僕の唇をなぞる。

 ……それに、これベルシャが使ってる奴だよね……。

 何とも思わないのかな……。

 

「我々はどうしたらいいでしょう」


 フレドさんが言った。

 

「執事は別にそのままでもいいわ。ここにはそういうの沢山いるし」


「で、では私も女装か……」


 頬を赤らめながら王子が言った。


「あんたは兜被って、飾りの鎧のフリすりゃいいでしょ」


 そういうとまた僕のメイクへと興味を移す。


「そ、そうか……」


 なんで王子は残念そうなんだよ……。

 っていうか、それなら僕も鎧着ればいいじゃん!


「よーし、できた」


 嬉しそうな顔で鏡を見せてくる。

 嫌がらせか、これ……。


「……相変わらず化けるよな、お前」


 シェズは若干戸惑いながら言った。

 

「おい、バイザーで上手く見えないぞ、おい」


 王子がやたら近づいてくる。

 暑苦しいっ。 


「服は、これでいいわね」


 ベルシャが船の上で着ていたのと同じ白いワンピースを持ってきた。

 

「うう、足元がスースーする……」


「良い感じじゃない」


 満足げな笑みを浮かべてベルシャは言った。


「さてと……」 


 ベルシャは黙って扉を指さした。

 それが何を意味しているのか解らないでいると、ベルシャはため息を一つ零す。


「レディはお召し替えの様です。誠様、王子、こちらへ」


 通訳をするようにフレドさんが言い、扉を開けて僕らの退室を促した。




「お待たせ」


 見慣れたボンテージファッションに着替えたベルシャが部屋の中から出てきた。


「レディを待つ時間はどれだけかかっても尊い物だよ」


 王子が壁に寄りかかりながら髪をかき上げようと手を上げた。いちいち格好つけるの疲れないのかな。

 まぁ思いっきりバイザーで遮られてるんだけど。

 

「……それより、なんで律儀に待ってたんだ俺たち?」


 シェズが呟いた。


「それでは、行きましょうか皆さま」

 

 遅れて部屋から出てきたフレドさんが言った。


「さ、魔王様のいるところはこっちよ」


 そう言って歩き出したベルシャの後ろを、フレドさんが続く。

 僕らも慌てて後に続く。

 

「……ってフレドさん、今着替えてた部屋から出てきたよね!?」


「驚くところ……そこか?」


 僕はあえて考えないことにして歩く速度をあげ、ベルシャの隣に並んだ。

 


 すれ違う衛兵たちの視線が突き刺さる。

 僕は顔を合わせないように下を向いたまま歩いた。

 何だよ、余計に目立ってるじゃないか!


「誰だ今の……」

「あんな子いたか?」


 すれ違う声が遠くなるのを聞きながら、それ以上に心臓の音がやたら感じられる。


「今のあいつらの顔見た? でれーっとしてたわね」


 見てる余裕なんてないよっ。

 言い返そうとしたところで、ベルシャは手で進路を遮った。

 視線の先に大きな扉があった。

 その両脇に門番が二人立っている。


「ここで待ってなさい」


 小声でベルシャが言うと、一人で門番の前に走った。


「どうなされましたか、ベルシャ様」


 男の声が聞こえた。

 王子にその場に立ってもらい、僕らをそれを陰に隠れつつ様子を伺う。


「勇者が逃げたわ! あんた達見てない!?」


 言いながらベルシャはこちらに視線をチラリと向けた。


「あいつ……!」


 シェズが声を上げようとしたところを、フレドさんの手が塞いだ。

 

「ここを封鎖して正門に追い詰めるわ。人手が足りないからあんたもそっちに行きなさい」


 ベルシャが言いながら僕らの立っている通路と反対方向を指さした。

 衛兵は敬礼をしてそちらに向かっていく。


「……いいの?」


「何が?」


「いや、味方を騙すような事して……」


「実際に勇者は逃げてるしー、人手が足りてないのは本当だしー。ほら、アタシ嘘ついてなーい」


 言いながらベルシャは扉を開けた。 


「……気になるのよね、あんたを裏切ったって奴の事」


「エミカの事が……?」


「気になるだと違うかしら……気に入らない、かな。アタシの知らないところで魔王様に取り入ってたなんてさ。散々アタシの邪魔しておいて」


「なんだ。嫉妬か」


 シェズが呟くと、目を吊り上げてこっちを見た。

  

「魔王様があのちっこいのに騙されてないか心配してるだけよ!」


 なんともご主人様思いの事で……。

 僕らが扉を抜けると、荒れた地面が広がっていた。

 そして、その視線の遥か先に、大きな神殿の様な建物があった。


「あれが封印殿よ」


 そこに魔王がいるのか……。

 そして朝倉さんも……!

 僕は拳を握りしめ、一歩を踏み出した。

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