風光極指 素晴らしき人へ
ガイアちゃんを泣かしてどのくらいたっただろうか?
とりあえず乾いた下着とズボンを履いて日陰に寝転がる、別に僕はゼンラーが好きなのではなく、ただ濡れてるのが嫌だったんだ。
自分が濡れるのは大して気にならないけど、濡れてる服を身に着けるの駄目だ、何故あんなに不快なんだろう?
ぼーっとしてると風が心地よい。砂漠じゃなくてプライベートビーチだと思えば良い環境なんじゃないか? 残ったミネラルウォータを飲みながらそう思う。
さてYシャツも、もう乾くだろう。
ガイアちゃんも少しだけ待ってくれれば良かったのに。
ちなみにガイアちゃんは、話しかけても相手にしてくれない、音信不通状態だ。
どうやら怒らせてしまった。後で何かおやつを買ってあげれば機嫌が直るかな。
*+*
「へっくしょん!」
ぼーとしてたらいつの間にか肌寒くなっている、太陽がいつのまにか沈む寸前だ。
どうやら僕は寝てた様だ、さっき13時間寝たのにまた眠ってしまうとは。相当疲れてたんだな、たしかにシャイニング フレアは一日寝ててもおかしく無い位疲れたけど。
「うへぇ、危ないな」
言い訳をしようが砂漠で寝てしまったのは事実だ、怪物に襲われなかったのは幸運以外の何物でもない。
とにかく服を着よう上半身裸で寝てしまっている。
「ガイアちゃん」
服を着てから呼びかけてみたけど返事が無い。まだ怒っているのかな? 一度コンビニに戻ろう。
「どうしたのコアちゃん」
そう思ったところでガイアちゃんからの返事があった。
「ああ、良かった。いつのまにか寝てたんだけど、その間に何かあった?」
「別に無いけど、砂漠で寝てたの?凄い事するねコアちゃん」
シャワーの時も思ったけど、ガイアちゃんは四六時中僕を見てる訳では無いみたいだ。コンビニの中で何をしてるんだろう、寝てるのかな。
「その御蔭で体調はかなり良くなったよ、夕食を食べたら早速砂漠の攻略をしよう」
「りょうかーい」
*+* *+*
今は夜の砂漠を歩いている。ご飯はささっとコンビニでガイアちゃんと一緒に済ませた。
昨日と同じように小声で囁く様に話しながら歩く。
「しかし砂漠で寝てしまうとは。幸運に助けられたよ、油断し過ぎた」
「それはそうなんだけど、幸運だけじゃないよ?」
「幸運だけじゃないですか?」
「うん、昨日の夜にコアちゃんがやった大型照明魔法で一部の怪物以外はこの辺りから逃げたんだよ。基本的に野生の生き物は臆病だからね」
大型照明魔法とかその表現は止めて欲しい、心にズンっとくる。
「それはたしかに考えられる事態だね。でも残りの一部の臆病じゃない奴らが集まってくるから、かなり危険では?」
そう考えると好奇心旺盛な化け物がこの辺りに潜んでる事になる。
「昨日の夜は凄い危険だったと思うよ」
「昨日の夜限定ですか」
「だって、あれだけ照らされてる中を移動したら目立つもん。まず確実にその集まった同士で戦いがあったと思うよ」
あれ?ガイアちゃんが僕より理論的に話してるようにみえる、基本お子様だったはずなのにいつの間にか抜かされてるぞ。
「それで勝った方が負けた方を捕食して満腹になると自分の家に帰っちゃいました。そうするとあら不思議、誰もいなくなりましたとさ」
「なるほど、弱気な奴は逃げ出して強気な奴はお互いを食い合い結果誰も居なくなった場所で僕は寝てたって事ですか」
それはそれで幸運だけど原因になったシャイニング フレアは僕が出したから、自分の身を守ったとも言えるかもしれない。多分。
「だから、寝てて平気だったのは幸運じゃなくて。ちゃんとした原因があっての結果だったんだよ」
「原因と結果、たしかに世の中はそれで成り立ってますね。幸運で片付けて満足してちゃいけませんでした」
まさかガイアちゃんに教えられるとは、そもそも僕は原因と結果にこだわる人間だったのに幸運の一言で片付けてしまうとはなんと情けない。
いくら超常現象が続いてたとしても考える事を放棄しちゃ駄目だね。
そんなこんなでガイアちゃんと話しながら歩き続ける。
特に何事も無く歩を進めていく。途中で休憩を挟みながら9時間ほど順調に歩いて今日は終了である。
またトイレで寝るのかと思うと気が思い。
*+* *+*
寝て起きて現在の時刻は昼過ぎ。僕は砂漠の日陰でぼーっとしている。コンビニの中ではトイレ以外で休めないので必然的に外で休む事になる。
「暇だなー」
今日は横にならずに座って寝ないように気をつけてる。
「何をするかなー」
いつもなら適当にしゃべってるとガイアちゃんが相槌を打ってくれるんだけど今回は来ない。
ふむどうしようか。
今のポイントは13523p。昨日がほぼ0からスタートだったからこれが僕が一日で蓄えられる金額という事になる。
当たり前だったけど一日21600p貯める事なんてできやしない。
3億の目標は高過ぎた、地球に三億円持って行こうと思ったら当初の40年の倍の80年くらいみないといけない。
しかし一日の収入は21600pだから8000pくらい使っちゃってるな、節約すべきか?
だけど砂漠で脱水症状なんてしゃれにならないから、水分は多めに取らなきゃいけないし。
今は生きる事と体力が最優先だから食べる物を減らす訳にはいかないしシャワーとかを節約するのも嫌だし・・・・・・。
生きてればお金は増えていくんだ、今は生きる事を考えよう。
そう考えると手札を増やす為にも、前回失敗したレンタルマジックに再挑戦するべきだな。
何も考えないで、僕の考えた最強の魔法(照明)をやったからあんな事になってしまったんだ。
もっと計画的に考えて挑戦しよう、僕は困ったらマニュアルを読む派だから今回はマニュアルさんを呼ぼう。
「ガイアちゃーん」
「呼んだー?」
相槌はしてくれなかったけど、呼んだら返事をしてくれた。
困った時のガイアちゃん、マニュアルを沢山持っているみたいだから今回も頼ろう。当初アホの子などと言ってしまったが実は相談解決率がかなり高い優秀な子だ。
「今からレンタルマジックの練習をしようと思うんですけど何かアドバイスは有りますか?流石にこの間の二の舞は避けたいのです」
「ふむふむ、了解だよ。ちょっと待ってね」
うん、予想通りマニュアルを探してるみたいだ。今頃コンビニであんなこんなでぽよよんぽよよんしてるんだろうな。
流石にそれを見る為だけに戻るのはなんだからここで待っていよう。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「あったよー」
「お待ちしてました」
何となく生徒みたいな対応をしてしまった。
”教えて!ガイア先生!”はじまるよー。
「それでね、まず大前提なんだけど」
「はい」
「コアちゃんは、レンタルマジックとかレンタルスキルって分けて考えちゃってるけど基本は同じ物なんだと覚えていてね」
「同じですか?」
「そうだよ、それでね。新しく分かった事を説明するとね。コアちゃんの神能の本質はポイントを何かに変える能力なんだよ。コンビニの商品はレジに通した時にポイントを使って実体化してるんだって。だからレジを通さないで袋を開けたりコンビニから出ると商品は消えるんだよ」
「なるほど、そういう仕組みだったんですね」
在庫が沢山あるから、その辺り結構不思議だったんだよね。
ちなみに僕のコンビニの商品には賞味期限が無い、正確には書いてない。だから結構気になってたんだけど、どうやら杞憂だったようだ。
しかし、並んでる商品は全部ダミーだったのか。となるとマンガとかはどうなってるんだろう? ページを捲ると消えちゃうのかな?
「それでねレンタルマジックとレンタルスキルって言ってるのも実は本質はコンビニ能力と一緒なんだよ」
「マジックとスキルは分かりますが、コンビニもこの二つと同じ能力なんですか?」
「そうだよ。でも本質が同じってだけで、ポイントで物を創造しているコンビニ能力の方が凄い事してんだよ。だからこそガイアちゃんがコンビニを管理してるんだから。マジックとスキルだけだったらガイアちゃんが来るまでも無い普通の神能だよ」
何かムフーという音が聞こえてきた、勝ち誇ってるガイアちゃんの顔が頭に浮かぶ。
「それでね、最初に戻ってレンタルマジックを上手く扱う方法なんだけど。結論を言うと自分が好きで得意とする事を応用するのが一番良いと思うんだよ」
「好きで得意な事ですか?」
「うん。イメージが大切なんだよ。イメージが無いまま、それでも無理に使おうとすると前回の照明魔法みたいにポイントを大量消費するのに何だか分からない効果になっちゃうんだよ」
「イメージですか」
照明魔法の話題は本当に止めてください。
「うん、イメージ無しにポイントを流し込むと失敗魔法になるよ。そういえば照明魔法は媒介に何を使ったの?」
「魔法の媒介といえば詠唱かなと思ったので詠唱です」
「詠唱はイメージを強化する方法だから媒介にはならないんだけどな」
「あれ、じゃあ媒介無しで発動したんですか?」
「コアちゃんが持っているポイントは万能性を持ってるんだよ、だからポイントを媒介にしてマジックが発動したんだと思う。だから一気にマイナスになっちゃったんだね」
「あれ?ポイントが媒介になるなら事実上媒介は要らないのでは?」
「使うだけならそうだけど、凄く効率悪くなるよ。具体的には使うと手持ちのポイントが確実にマイナスになるから」
「一発で借金ペナルティですか!」
やばい、戦慄した! 酷過ぎるだろ。
「自分のポイントを媒介にしちゃってるからポイントを全部持っていかれちゃうんだよ。その上でレンタル分も使うから確実に借金だね」
「失敗は有意義だったって事ですね・・・・・・」
それでシャイニング フレア(照明)を使った時あんなに疲れたのか。知らないままポイント貯めて何かの拍子でやっちゃってたら死ぬほどのダメージを受けたな、早々に知れてよかった。
「だからね、練習するなら媒介が絶対無くならない空気とかその辺りのマジックがいいよ、火だとライターとか用意しないといけないから大変だよ」
「なるほど、媒介って言葉で戸惑いましたけど触ってる物が媒介なんですよね」
「うん、そう何度も言ってるよ」
うん、何度も聞いてる。でも、理解できてなかった。駄目な僕を許して欲しい。だが、この話を聞いて素晴らしい事を思いついた。
「一つ思いついたんですが、音って媒介になりますよね」
「うん、なるよ。空気の振動だから、その振動の部分を強化させたり変化させたり出来るよ、ただ実態を持たないからポイントで強化しても限界があるし効率も良くないから注意だね」
「限界って有るんですか?」
「そこはイメージで補う部分なんだけど、例えば音で物を切るって出来ないでしょう?それをどうイメージするかが問題なんだよ、それでも限界は有るけどね」
いや、音で物は切れるんだな。まっぷたつに。
「ありがとうございます、とりあえずやってみようかと思います」
「ポイントの使いすぎには注意してねー」
長々とした相談教室は終わった。なんだか本当に生徒役をやっていたな。ずっと聞き役だった、教わってるんだから当然なんだけどね。
さて。じゃあ、気合を入れますか。
イメージするのは素晴らしきあの人だ。
あの技をはじめて見た時、純粋にかっこいいと思った。まるで歌うように踊り辺りをスタイリッシュでコミカルに切り裂いていく。
使い手は悪役で退場の仕方もカッコ悪い。だけど、かっこいいんだ。そして素晴らしい技なんだ。
僕はマネをした、暇な時に練習をした。もちろん再現できる訳が無い、だけど形だけは様になった。その結果が高速ビート指パッチンだ。
今の僕ならあの技を再現出来るはず、いやできるんだ。
ならやるしかないだろ!
息を整える。両腕を上げて指に力を込める。目標は日陰を作ってる砂山だ。
やってやる、まっぷたつしてやる。
深呼吸をしてから息を止める。
イメージだイメージしろ。
パパチン
・・・・・・。
真っ二つには、ほど遠いけど狙った辺りの砂が少し吹き飛んだ、成功したのか?
「ピンポンパンポーン、お知らせします。商品名、風光極指100Pの請求です。あ、二回使ってるから一回50pだ。”その音は美しい風景と共にある”何だか意味が分からないね? 説明を見る限り攻撃するものじゃないのかな? 報告おわりー」
・・・・・・なんだ、今の放送は?参考になったから助かるけど。
「ガイアちゃーん」
「はいはい、なんですかー」
「今の説明は何?」
「何もかにも、コアちゃんが使った技の説明だよ」
「それは分かるけど。僕は凄いイメージして気合を入れたのに一発50pってどういう事?スキルの1000pと比べても差が有り過ぎない?」
「だから言ったじゃんよー、実態の無い物には限界が有るって」
「具体的には、どんな限界なんですか?
「コアちゃんがソフトボールとティッシュペーパー持っていて投げたとしたら、どっちの方が飛ぶと思う?」
「それは考えるまでも無くソフトボールですけど」
「それと一緒で、音だと媒介として軽過ぎていくらポイントを乗せても意味が無いから、というより乗せる事が出来ないんだよ。コアちゃんの指で鳴らせる音だと50pまでって事だね」
「な、なるほど。強化とか出来ますか?」
「どうしても使いたいなら何かしらの工夫が必要なんじゃないかな?」
「その工夫とは?」
「残念マニュアルには書いてないのでコアちゃんが自分で工夫してください」
「分かりました」
「後は慣れで精度が上がれば強くなるんじゃないかな」
「慣れですか」
「そうそう、音に50p乗っているといっても。その内の10%位しか上手く使えてなくて90%が遊んでいるとかそんな感じの、練習すれば50pを100%活用できるようになるんじゃないかな」
「熟練度ですか」
「使ってればそのうち最適化すると思うけど、そこまでやる価値があるのかな? と、いうところで、おわりー」
「ありがとうございます」
そういって誰も居ない所に一礼する・・・・・・完全に教師と生徒になってるな。
さて、また長々と説明したけど要は、風光極指(指パッチン)を使っていくには工夫と努力が必要って事だな。
うん、何の問題も無い、せっかくだから極めてやる。目標はもちろん真っ二つだ。
幸い昼の時間は持て余ましてたから、練習時間は沢山取れる。
砂漠で怪物が寄ってくると困るから、こっちに来てからは練習してなかったけど化け物が来たら真っ二つにしてやる。
今日からは指パッチン改め風光極指、長いから風極で良いや。
風を極める、うん素晴らしく相応しい名前だ。
良いぞ良い感じにテンションが上がる。
極める、極めてみせるさ。
そう決意して肩慣らしとして高速ビートで風極を連続に砂山に放つ。
弱い威力だけど連続で使う事により、みるみる砂山が削れていき砂埃が舞い上がる。
はっはっはー、なんかこれ”俺の両手は”に似てるじゃないか、あっちも某盗賊団で悪役だけど、何で悪役の技に似るのかな?
ポイントを使いすぎてガイアちゃんに叱られる、5分前の出来事である。
悪役の技なんだから悪役の技に似るのは当然なんだな・・・・・・。
そんな訳ですばらしきあの人のあの技もどきがメインウェポンです
今だプロローグで説明話が続くとか構成酷過ぎますがどうかお付き合いください