★星々の彼方への旅 第一章
進化した人類は60万年前に地球の周りを回る
月の内部に住む他の宇宙から来た人類に似た種族との交流を深めた。
月面内部の地下資源を利用しての巨大宇宙船の製造が彼らの目的であった。
しかし、彼らの体は地球に無数に存在する、
ウイルスやバクテリアに対する免疫機構が退化しているため、
月の内部から地球に移住することは断念したのだったが、
人類の科学技術を向上させることによって
自分たちの願いをかなえるべく我々に手を差しのべてきたのだった。
だが彼らの体は宇宙空間での長期滞在により肉体が退化し始め、
人類とは似て非なるものに進化してしまった。
もはや彼らにとって肉体に生命の痕跡を残すことすら無意味に思えた。
肉体を持たない。いわゆる我々人類がめざす最終目標地点が
永遠の生命だとすれば、
彼らもまたそれをめざしたに違いない。
地球が原始生命から宇宙へ旅立つ生命体を育てる為のゆりかごであったように
彼らは月面内部において建造されている宇宙船に乗って
太陽系を離れるために滞在していたのだった。
21世紀初頭には実現できないと思われていた宇宙旅行が、
一般市民でも行くことが可能になったそんなある日。
宇宙食を製造している私の会社(Eath foods)も
地球の軌道上を回る宇宙ステーションに食糧を出荷するようになり、
最新型の宇宙シャトルのオーロラ5号に乗って
宇宙に行く日がやってきた。
宇宙ステーションで働いているガールフレンドに会うために
私は種子島に建設された宇宙空港に到着した。
「まもなくステーション3へと向かうシャトルの
搭乗手続きを行います。
手荷物をお持ちの方は1番ゲート。
お持ちで出ない方は2番ゲートまでお進みください。」
搭乗券を確認し2番ゲートへと進んだ。
一年前に建造された種子島宇宙港には、宇宙レストランでの
勤務が決まったガールフレンドを見送るために3ヵ月ほど前にも
一度ここに来たことがあったが、
今度の転勤先は月がいいなんて彼女の口から
言い出すなんて最初は驚いたが、
彼女の両親は国際宇宙開発事業団エルゴ協会に所属していて、
4年前から宇宙ステーションで働いていた。
「皆様にお知らせします。搭機はまもなく離陸しますので
シートベルトを装着してくださいますようお願いいたします。」
「通常の航空機とは違い離陸後の傾斜角度が5分以内に90度垂直になります。
最大加速は2Gで無重力状態を体感できますが大気圏離脱まで、
飲食物はいっさい取らないようにお願いします。
なお、搭機の飛行時間は65分の予定です。」
激しい振動音と機体にひびが入るのではと思えるような揺れ。
音速を遥かに超える重力加速度で声も出せなかった。
宇宙旅行が身近になったとはいえ、
さすがに地球を離脱するということは肉体的には楽であるはずがなかった。
やがて先ほどまでの緊張と騒音が嘘のように静まり返ったかと思うと
エンジンの噴射音も消え耳鳴りもしなくなった。
どうやら宇宙空間にたどり着き慣性飛行に入ったようだ。
「おつかれさまでした。無事に等機は大気圏を離脱し、
このまま慣性飛行で40分後にステーション3に到着予定です。」
「窓側のお客様は後方に地球をご覧いただけます。」
機内から、歓声が沸き起こった。窓からは青い地球が見えた。
宇宙ステーション3は2028年から建造され2040年に完成した
最新型宇宙ステーションで2分間で1回転することにより
人口重力を作り出している。
シャトルは宇宙区間を滑空したのち
宇宙ステーション3にドッキングした。
シートベルト着用のサインが消える。
入国審査官のいるゲートを通り
身体検査を受けてた後にパスポートを見せて。
目的地は月への観光旅行であると告げると、
入国審査官の女性が
「congratulation have a nice day」と言って、
にっこりほほ笑んだ。
ゲートを抜けてラウンジに出ると、
ガールフレンドのユキコが迎えてくれた。
「ようこそ、ステーション3へ」
「しばらくぶりね、会いたかったわ、
スペースラウンジでお茶でも飲みましょう。」
彼女の案内で、ステーション3展望ラウンジに向かった。
空一面の窓からは宇宙空間に浮かぶ青い地球が見える。
しばしの間、私は地球の青さに見とれていた。
彼女の話によるとご両親は地球を離れてもう4年になるそうだ。
宇宙ステーションでの仕事は最高でも5年しか続けて勤務できない。
その理由は月や宇宙空間での滞在が長くなればなるほど、
足腰に負担がかかり地球に帰還した際に足腰が弱って立てなくなるのだ。
彼女の両親はもうじき地球に帰還されるらしいが、
今は二人そろって宇宙食堂で働いている。
「私は先に荷物を部屋に置いてくるから、
少しの間ここで待っていてくれるかな。」
「私が部屋まで案内しましょうか」
「そうだね、助かるよ。そうしてもらおうかな。」
ユキコの案内で旅客ターミナルから荷物を受け取り、
客室へと向かった。床が少し弓なりに歪んで見えるのはステーション3が円形をなしているからであり、
回転している通路の窓からも青い地球が羨望できた。
そんなとき地球の太平洋だと思われるところから移動してくる
黒い円筒状のUFOのような物体がこっちのほうに近づいてくるのが見えた。
部屋から出た後に彼女と、もう一度スペースラウンジまで戻り、
お酒を少し飲んでから部屋へ戻った。テレビを付けるとニュース特番をやっていて、
急激な円安ドル高の影響による国内の消費の落ち込みが懸念されていたが、
毎度の事なので、チャンネルを切り替えた。
ユキコは、シャワーに入った後に髪を乾かしベットに横になっていた。
夕食はレストランではなく各部屋に配達されるようになっているらしい。
今日のメニューは、ビーフポテトサンドと
サーモンレタスサラダとコーンスープだった。
味はまあまあだったがお互いに少し疲れたせいか、
食べ終わると、二人で窓から地球を眺めた。
寝るにはまだ少し時間が早いように思えたが、
宇宙開発事業団エルゴ協会の
資料やステーション3の従業員及び観光客の好む
食料品の在庫リストに眼を通しているうちに眠くなってきた。
宇宙空間での最初の夜は彼女を抱いて寝た。
翌朝は8時30分発の月行きの直行便に乗り込むために
スペースゲートまで向かった。
手荷物検査が終わり荷物を預ける。
月面に向かうシャトルは片道約37万キロを、
時速2万7千キを14時間飛行し、
月面にあるアルキメデス宇宙港に向かう。
全席ファーストクラスの座席はボタンひとつでベットに早変わりする。
飛行時間が長いので疲れが溜まっている人には充分な休息になるだろう。
シートベルトを着用し、シャトルは静かに動き出した。
このシャトルは最大速度時速2万7千キロまで加速すると慣性飛行に移る。
シートベルと着用のサインが消えると私はCAを呼び
ホットコーヒーを注文した。
アルキメデス宇宙港に向かう途中でシャトルは
月の周回軌道に乗せたが、空港集辺地域の停電の影響で
予定はキャンセルされ、近隣のコペルニクス宇宙港に臨時着陸することになった。
初めて観るコペルニクス宇宙港周辺地域には
信じられないことに湖も緑の森林地帯もあり
川も流れているではないか、
私は自分が幻覚でも見ているのだろうかとさえ思えた。
緊急着陸する宇宙港は森林地帯の中に確認できた。
空気も水も存在しないはずの月面にどうして大気と水があり、
そしてこんな場所があるとは、ほとんどの地球の人々は
まだ知らされていないはずだ。
以前に私が勤めていた出版社の資料施設で、
昔アポロ8号が初めて月の裏側を通過した際に撮影された写真に
月の裏側にある森林地帯が写ってるの見たことがあったが、
誰かのイタズラかトリック写真だと思っていたけど、
空港周辺地域には森林地帯があることは、
はっきりとシャトルの窓からも確認できた。
「お知らせします。アルキメデス宇宙港における
着陸施設誘導通信および一時的な停電のため、
当機はコペルニクス宇宙港臨時滑走路にまもなく着陸いたします。」
「到着後すみやかにホテルへと移動となりますので、
何卒宜しくお願い申し上げます。」
宇宙開発の初歩の段階から宇宙と月の存在について
知らされてきた情報は今でも隠蔽されているし、
何らかの目的でここを管理している国際宇宙開発事業団
の目的はいずれ明らかになるだろうが、
とりあえず我々の運命は存在の知れぬ管理者たちに
まかせるしか選択肢はないのだった。
シャトルから降りて施設内に誘導された。
それから我々は空港内の中央ロビーに集合することになり、
シャトルの機長から今回の臨時処置に関する詳しい説明を受けた。
「皆様も気が付いているように、月表面には当施設のように、
空気も水もある森林地帯があることに皆様方は戸惑っている
ことと思いますが。当施設は約30年ほど前から
宇宙開発事業団エルゴ協会の協力によりまして、
月面で限りなく地球に似た環境を再現すべく作られた施設です。
施設内には酸素も充分にございますし、
窓からご覧のとおり植物も育っております。つきましては、
当初の予定であったアルキメデス基地からの連絡が付き次第
今後の予定を再びおしらせいたします。」
「どうかそれまでの間は当施設でゆっくりお過ごしください。」
宇宙港を出ると空港が用意したエルゴ協会の
バスが止まっていたので乗り込んだ。
ホテルまでは、わずか5分足らずで着いた。