第1話 「認めるしかないみたい、ここは異世界だって」
彼女はそのまま言葉をつづける
「混乱しているようですね、お客人 ですが説明している時間はあまりないのです、なので完結に説明いたします、まずこの部屋の名前はクレティノの部屋、そう呼ばれています。」
それに続き、彼が言葉をつなぐ
「あなた方はこれから違う世界に飛ばされます、飛ばされた理由は私共にはわかりませんが、何か引き金になるような事でもあったのでしょう、その飛ばされた世界に何があるかはわかりません、そして死んでしまうかもしれません、しかし 元の世界に帰るにはその世界で生きていき、方法を探るしかないのです ご健闘をお祈りしております、それではまた。」
それだけ言い また崩れ落ちていくような感覚が襲いかかり、そのまま意識が飛んだ
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どこだよ、ここ
一人がポツリとそう呟いた、俺たちの眼前に広がっていたのは街でもなく、見知らぬ部屋なんかでもなく
広く、美しく輝く草原だった
吹き抜ける風が心地よい、花の優しい香りがどことなく匂って来るのが分かる
だが俺たちはこんな場所は知らない
そんな事を考えていると友人の一人がこちらを向きポツリとつぶやいた
「なぁ、お前らって・・・マジでお前らだよな?。」
見知らぬ人が見たら彼はDQNと間違われるであろう、外見は長髪で髪の色は金色でピアスを着けている
「あ、うん僕はいつも通りの僕だよアスカ、ねぇ、イオリもいつも通りのイオリだよね?。」
マイペース気味で髪の毛が若干天然パーマ風の眼鏡をかけている友人のシュンが俺にそんなことを尋ねてきた
「お、おう 俺も俺だぞ、た、多分。」
と若干テンパり気味でそう答える、まぁそりゃそうだろう急に草原に飛ばされたんだ 訳が分からない
ここは一体どこなんだろうか 外国なのだろうか 日本なんだろうか
一人で考えてみても埒が明かないのでとりあえず二人に問いかけてみることにした
二人にもそんな事はわからないというのはわかってはいるが、聞かずにはいられない。いられなかった
「なぁ、ここ・・・・どこだかわかる?。」
すると予想していた答えがほぼ同時に返ってきた
「わかるわけねーだろ・・・こんな場所知るわけねーべ。」
「んー・・・知らないなぁ でも気持ちいいところだよねー。」
シュンはこんな時でもやっぱり呑気だ、でも今はそれが少しうらやましく思える
「ま、ちょっとあたり散策してみよーぜ、もしかしたら町とかあるかもわっかんねーしよ。」
たしかにここで話していても何もわからない事は確かだ、アスカのその提案に乗る事にし、まずあたりを散策することになった 時間は太陽の傾きから見るにほぼ昼くらいじゃないだろうか
昼?おかしい、俺たちがいたところは夜だったはずなのに・・・ やはりズレでも起こっているのだろうか
三人で少し離れながらあたりを散策していながらそんな事を考える
「ねー二人とも―ー、あそこにお城と町みたいのみえるよー!!!」
俺たちよりも少し遠くにいるシュンが少し大きな声でそう言ってるのが聞こえた、方向では西南の方向に城下町が見えるらしい、アスカとともにシュンの方へと走しろうとする、その時だった
グルルル
と獣のような鳴き声が聞こえた このような草原ならば動物でもいるのだろうかと思いながら声のする方へ首を向ける、そこには小型ではあるが鋭い爪を持った獣がこちらを見つめていた、威嚇をしているのだろうか、徐々にだが距離を詰めてきている
これはまずい状況なんじゃないのかと思い二人に大声で知らせる
「アスカ!シュン!やばい、肉食獣みたいなのいる!!早く逃げなきゃ!!!」
そういうと二人は少々顔をひきつらせながら走り出した、後ろを振り向くと獣はこちらへ向かって駆け出していた、若干傾斜で平地よりも加速しやすいといっても獣と人間だ、その差はすぐに縮められてしまうだろう、だが武器なんてもっていない、逃げるしかない
「ちょっとこれマジでやべーってやつじゃねーの!!?肉食ってことは俺ら食われちまうんじゃねーのか!!?。」
「大丈夫二人とも?ケガはない? 今お昼位だもんね、お腹空いてるのかな?。」
だいぶ焦った様子でアスカが言う、声も結構大きめの声だ
それに比べてシュンはいつも通りの声だ、それでも顔には緊張の色が見える
城下町まではあと2kmはあるだろうか、逃げ切れるはずがない、もう駄目だ、助からない
殆ど諦めかけた時だった、少し離れた所から小さな火の塊が獣に命中した
獣は少し苦しんだような声を上げ、逃げていった
火の塊が飛んできた方向を見るとそこには鎧を纏い、剣とも、杖とも思えるような武器を持った人物が佇んでいた
「―――――?――――。」
なんといっているんだろうか?口はうごいているため喋っているのあろうが、理解はできない
ジェスチャーで言葉わからないと伝えようとすると、アスカとシュンがその人物の方へ向かい何か会話をし始めた、あいつらは言葉が解るのか? そう思いながら会話を聞いてみる
「あざっす!!!助かりました・・・おねーさんが居なかったら俺たち死んでましたよー、ほんと助かったっす!。」
「有難う御座います、助かりましたー あ、イオリ―!イオリもおねーさんにお礼いいなよー!。」
シュンが俺に向かってそういってきたので、急いであちらへ向かおうとした
だが、助けてくれたお姉さんはアスカ達の言葉を聞き驚きの表情を見せた、その後、小さく呪文のような物を唱えこう言った
「驚いたな、まさか言葉が通じない人間だったとはな、君たちは一体どこの人間なんだ?。」
言葉が、解った 原理はわからないがお姉さんが小さく唱えた呪文のような物の後わかるようになったので、おそらくそれで言葉が分かるようになったのだろう
「あの、ありがとうございます 危うく襲われる所でした。」
感謝の意を述べる、それに対してお姉さんは優しい笑みを見せた
「いや、困っている人が居るのならば助ける、それが魔法剣士の教えであり、騎士としての矜持だからね、それにしても君たちは一体どこから来たんだ?まさか言葉が通じず翻訳の呪文が役に立つとは思っていなかった」
魔法剣士・・・?この人は今魔法という単語が含まれた言葉を言った、しかも真剣な顔で、見知らぬ人に
魔法と言う言葉を まさか本当に来てしまったのだろうか、異世界に あの部屋で言われた様に飛ばされてしまったのだろうか?
そんな事を考えているとお姉さんが訝しげな表情で覗き込んできた
「言葉が通じていないのか・・・?もしそうだったら、拙いな・・・」
何かそんなことを呟いていたので急いで声を発した
「だ、大丈夫です!!伝わってますよ 有難う御座います、危ないところでした」
そういうと言葉がしっかり伝わったことが分かったお姉さんは安心した表情を浮かべた
「伝わっているみたいだな、ならいいんだ 見たことが無い服装だな・・・もう一度聞くが君たちはどこから来たんだ?。」
シュンがすばやく答える
「日本ですよーわかります?。」
「二ホン・・・?聞いたことが無い地名だな・・・。」
日本が分からない、そういわれ俺たちは驚きの表情を隠せず見つめあってしまった
「え、マジで日本がわかんないって言ったん?このおねーさんは。」
と口を少し半開きにしながらアスカが俺とシュンに尋ねてくる
「うん、みたいだねー これってさっきの部屋で言ってたみたいに本当に異世界なのかなー?」
「ほんとの本当に認めるしかないみたいだね、異世界だって事・・・・。」
その事実に頭を抱えたくなる、そしてできる事なら今すぐここで転がりたい気分になった
そんな事を話していたので若干蚊帳の外気味だったお姉さんが口を開く
「話しているところ悪いが、君たちはこれからどこに向かうんだ? 場所によっては一緒に向かおうじゃないか。」
なんとラッキーな提案だろうか、三人のままだったら獣程度で命の危険があるけれど、このお姉さんがいるのであるならば安全性は大幅に上がるだろう
「俺たちはここから西南の方向に見える町を目指しているんです。」
そう答えるとお姉さんもそこに向かっているらしくしばらく行動を共にした
町に着くまで様々な事が分かった、この世界は本当に異世界で魔法が存在しているということ、俺たちの言葉は大昔に失われた文明の言葉に少し似ていたということ、お姉さんの名前はアンヘルということ そして、この世界では騎士はエリートであり、その中でも魔法剣士になれる者は超エリート中のエリートだということ
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城下町に着いた、歩いてざっと30分くらいだろうか
道が整備されていたと言うことはこんなにもありがたかったのか、それを初めて実感できた
「ここまで話を聞く限り君たちは異世界の人間みたいだね、ならば王城へ行ってみるといい、詳しい事はわからないかもしれないがおそらく一番マシな所だろう、これを持っていくといい、王への謁見が許されるだろう。」
そういいアンヘルは小さなポーチの中から折りたたまれた紙を取り出し、指でその上をなぞった
たったそれだけの動作だったため、アスカが疑問を口にした
「アンヘルさん、紙なぞっただけじゃないっスか?それで本当に大丈夫ッスかぁ?
あ、それとここまでアリガトウゴザイマシタ!、すっげー楽しかったっす!!!」
その疑問は予想していたのか分からないけどアンヘルさんは自信満々の顔で頷いた
にしてもアスカはついさっき会った人にも殆どいつもの口調で喋っていくから凄い、なにも恐れてないと言うか、すぐに打ち解けている、しかしアスカが ~ッス というのは珍しい、そういうのは尊敬している人と恩義を感じている人だけだったから
シュンもアンヘルさんに向かってお礼を言っていた、ここまで連れてきた感謝とこれからの行き先を示してくれたことに対してのお礼だろうか、なんにせよこいつも今回ばかりはハッキリと喋っていた
なんにせよ俺もちゃんとアンヘルさんにお礼をいわなければならない
「何から何まで有難う御座いました、アンヘルさん あなたが居なかったらここまで来れなかったし、そもそも生きてなかったかもしれません。」
まっすぐアンヘルさんの深い碧色をした瞳を見つめて言う 若干照れたように彼女も見つめ返してくる
「イオリ、アスカ、シュン、君たちとの時間は有意義で楽しかった、久々に任務以外で人間と話したからだろうな、では私そろそろ行くとしよう、君たちとはまたいつか会えるといいな。」
そう言い、アンヘルさんは町の喧騒の中へ消えていった
「行っちゃったねー アンヘルさん」
「そうだな、ちょっと寂しくなるけど俺たちも行こうか?」
「あぁ、はよ行くべ!」
俺たちは、アンヘルさんが言った様に、王城へと進んで行った