不老不死になった存在の話
昔々。
物凄く発達した魔法文明がありました。
そのとある街で裁判が行われ、独りの若者に死罪が言い渡されました。
「でもどうせ死刑にするんだからこいつ魔法実験の材料にしね?」
「いいねー。で、なんの材料にする?」
「不老不死とかどうよ?」
「おもしろそー。やってみようぜー」
実験は成功してしまいました。困ったのは魔術師たちです。
「こいつどうする?」
「どうするって、殺せないしな」
「一応、『不死』にはなったしな」
「一日中起きて見張り番するのも面倒だしな」
「じゃあコンクリート詰にして海に沈めるのはどうよ?」
「あーそれいいね。それ採用」
不老不死になった若者はコンクリート詰めにされ、海の底に沈められました。
それから数千年くらい経ちました。
北の海でウミネコの漁師が魚取りの網を引き上げると、奇妙な石が引っかかっていました。
「なんだろう?墓石かな?人間の頭蓋骨が埋められた石なんて。沈没した船に積んで美術品にしては不気味だし」
「貴公。人間ではないのだな。まぁ我もだいぶ前に人間ではなくなってしまったのだが」
「頭蓋骨がしゃべった?!」
「我をこの石から出してくれたのなら、なんでも貴公の望みをかなえてしんぜよう」
ウミネコの漁師はちょっとだけ考えました。魂が持っていかれそうな気もしましたが、こう頼むことにしました。
「じゃあ悪い人間共をぜんぶやっつけてくれよ」
「悪い人間?」
「俺が生まれるずっと前から西の国からやってきては、人を殺したり。食い物や金目のものを奪っていったりやりたい放題さ。できるかい?出来たら俺の魂でもなんでも。くれてやるさ」
しゃべる骸骨は少し考えました。
「まずはその人間達を見てからでないとどうにも言えないのう」
そして魔法を唱えると、ウミネコの漁師を乗せたまま、魚を一杯に積んだ釣り船は陸へと飛んでいきました。
しゃべる骸骨とウミネコの漁師はしばし旅をします。空を飛ぶ魔法があるので楽ちんです。
やたら高い塔のような建物が並ぶ、街の跡に辿り着きました。そこには誰も住んでいません。
「骸骨の旦那。この街はなんだい?」
「我の生まれた場所だよ」
しゃべる骸骨は、鉄製の馬車の残骸らしきものを触りながら言いました。
「最も、住んでいた者達は皆死絶えてしまったようだがな。これで一つわかったことがある」
「なにがわかったんだい?」
「貴公の願いはかなえることができそうだぞ」
しゃべる骸骨は転移の魔法を使うと、人間の軍隊の真上までいきました。そして魔法で全部焼き払ってしまいました。
その後も人間の国から度々兵隊がやってきては、悪さをします。そのたびにしゃべる骸骨は魔法で焼いていましたが、ある日。しゃべる骸骨は気づきました。
「そうだ。我は不死身だからいいが、我以外の者はそうではないな。彼らが死ににくなるようにしよう」
しゃべる骸骨はセメントの作り方を教えました。コンクリートで丈夫なお城を造って、悪い人間達が来たらそこに逃げるように皆に言いました。
しゃべる骸骨はマスケット銃とクロスボウの作り方を教えました。魔法の使えない者でも遠くから人間の兵隊を追い払えるようになりました。
しゃべる骸骨は鉄に僅かに炭を混ぜた丈夫な金属の作り方を教え、それで武器と防具を造るように教えました。物凄く難しい製法なので、人間なんかには絶対真似できませんでした。
それから何十年か過ぎました。
「不死公様。私の寿命がもうすぐつきようとしております」
既に全身の体毛が白くなったウミネコがしゃべる骸骨に語り掛けます。
「そろそろ私の魂を貰ってはいただけないでしょうか?」
しゃべる骸骨は不思議そうな顔しました。白骨死体なので表情はわかりませんが。
「魂?我は貴公からそんなものを貰う必要などないが」
「最初にあった時に約束したではありませんが。私達、魔物と呼ばれ、邪悪な人間達に無意味に殺害される者達を救ってくださるのならば私の魂を捧げると」
「そのような約束はした覚えはない。そもそも人の魂など不要だ。それで我の魂が充足するわけではないがな。それよりも貴公の寿命が尽きることの方が問題だ。延命法を望まぬのであればこの国の次の王を早急に決めねばなぬ」
「では是非とも不死公様でお願いします」
「そう言う訳にはいかん。よいか。民主主義というのを知っておるか。これは言うなれば国王を選ぶ方策でな。皆の中でこの者が王に相応しいと思うものを選び、一番多く支持された者が新たな王となるのだ」
「ですから、不死公様が新たな王がよいと皆が申しております」
今でも、魔物の国は人間の国より平和で、豊かな、民主主義国家として栄えているそうです。
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