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迅雷の日霊  作者: イヲ
第四章・シュンポーニアコールム・マギステル
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「ああ、堂元さん。それに夜天光さんに斑鳩くん? 待っていたよ」


 広い室内の中心に置かれている机の上の刀掛けにかけられているのは、刀。

 その上に、深い緑色の布が被さっている。


「さあ、斑鳩くん、持ってみてくれないかな」

 

 刀を打つ「打ち手」と日霊のうちで呼ばれる女性は袴をはき、水引で後ろに髪を束ねた、こざっぱりとした美人だった。

 夜凪は布を取り去り、刀を見下ろす。

 わずかに息をのんだ音が聞こえた。


 躑躅も気になったのか、刀を見下ろした。


「すごい」


 ぽつり、とつぶやく。

 刀のつくりが、前の百代と全くちがう。

 柄頭は丈夫そうなつくり。

 柄糸は潔い黒。

 目打ちと目貫は白銀。

 鍔とはばきは照明に輝く銀。

 鞘はえんじ色。

 

 一目で丈夫な刀だとわかる。

 どっしりと重たい、誇り高い刀だとも。


 夜凪は呼吸を整えて、そっとその刀を持ち上げる。


「重い」

「そう。百代は軽くて、鞘以外はこわれやすかった。だいぶ前のだったからね」

「抜いても?」


 女性は自信ありげに「どうぞ」と手を差し出した。

 鞘と柄をしっかり持ち、思い切り鞘から刀身を抜く。


「……きれい」


 躑躅のことばに、女性はほほえむ。

 重厚感はあるけれど、とてもうつくしい刀だった。

 

「見る目あるね、夜天光さん」

「そうですか?」

「あ、申し遅れました。私は火神(かがみ)鏡子(きょうこ)。よろしくね」

「よろしくお願いします」


 鏡子と握手をすると、にこり、と笑いかけられた。

 もしかすると、彼女が凍華を打ったひとなのかもしれない。


 夜凪は鞘におさめると、再度刀もちあげて、見つめた。


「火神さん、もしかすると凍華も?」

「そう。凍華も私が受け持っていたよ。どう? 凍華は。やっぱり重たい?」

「え?」


 重たい、と鏡子は尋ねた。

 けれど躑躅が実際に使ったときは、とても軽かった。

 まるで羽のようだ。


「いえ、とっても軽かったです。体が持っていかれそうになるくらい」

「軽い……? 凍華は丈夫に作ったから、その分重くなったはずだけれど」

「躑躅ちゃんには、そう感じたでしょうね」

「どういうこと? 堂元さん」

 

 鏡子が尋ねるも遊糸は腕をくんで、唸っている。

 躑躅には「そう」感じるというのならば、菊理のことも言わなければいけないかもしれない。

 そう考えているのだろう。


「ちょっと、それはねぇ……なんて言えばいいのかしら」

「堂元さん? 私が打った刀がどうにかなっているのなら、私にも知る権利があると思うのだけれど」

「躑躅ちゃん。彼女、職人気質なところがあるし、口も堅いと思うのだけど……どう?」


 数週間前、菊理の力のことは躑躅自身と伏、そして遊糸のみでその他は他言無用だと約束したのだが。

 それでも打ち手に知っておいてもらっても、かまわないだろう。

 逆に知らずに打ち直しされていたら、アラミタマと対峙したときに不具合が出るかもしれない。


「私は……ここにいる全員に話しても、かまいません。斑鳩くんも、口堅そうだし」

「学校前のアラミタマの時の、か?」

「そう」


 躑躅がうなずくのを確認してから、遊糸が話始める。

 

 菊理のこと。

 菊理の魂を継いでいること。

 千里眼のこと。


 躑躅にしか聞こえない彼女の声は、さすがに言わなかったし、遊糸も知らないだろう。


 話おえた遊糸は、再度他言無用に、と、くぎを刺した。


「そんなことがあるとはねぇ」

「隠さなければいけない事実、ってわけじゃないけど」


 鏡子と遊糸はふたりで話し込んでいるようだ。


「夜天光」

「な、なによ……」


 夜凪に睨まれているような気がする。


「どうして言わなかった」

「言わないわよ。堂元さんと、他言無用って話だったし」

「……」

 

 じっと見られているけれど、躑躅は悪くない、と思う。

 彼には、別段迷惑かけていなかったのだし。


「夜天光さん、あなたは菊理に選ばれた、ということになるね」

「選ばれた?」

「そうでしょ。そんなはなし日霊には分からないし、千里眼なんて力、一般人でも持ってないよ」

「……どうして、私なんでしょうか」


 よく考えると、なぜ躑躅が菊理の魂を継いだのだろう、と思う。

 両親は父が日霊だった、というだけで、日霊のお役目にとても近い血脈、というわけでもない。


「それは、私のほうで調べてるわ。今のところ、まったく分かっていないけれど」

「おねがいします」

 

 遊糸に軽く会釈をして、再度鏡子へと向き直る。

 彼女はむずかしい顔をして、あごに手をあてていた。


「それでも重たいと感じるはずのものが、すごく軽く感じる、なんてこと、あるのかな」

「それも、私のほうで調べているわ。でも、軽すぎて体が持っていかれてしまう、というのはきっと、どうにもできないと思うけれど」


 どうしようもないことならば、仕方がないこと。


「私、庭で鍛錬しているし、軽さにはだいぶ慣れてきました」

「おまえ、日本刀庭で振り回してるのか」

「そうだけど」

 

 夜凪があきれたような表情をしているが、本当のことなのでどうしようもないし、隠すこともないだろう。

 鍛錬するのは大切だ。

 夜凪はたしか、アパートに住んでいると言っていたので、庭で素振りなんてできないだろうけれど。


「大丈夫なのか。それは」

「今まで通報されたことないわ。周りにレンガあるし」

「……そうか」

「さすが躑躅ちゃんね。けど、あんまり無理しないでね」


 遊糸も困ったようにほおに手を当てている。


「火神さん。この――銘は何というんですか」

天雷(てんらい)だよ」

大刀様(おがたさま)には」

「奉納済み。すぐにでも使える」

 

 本部には大刀様と呼ばれる何百年も昔から存在している刀が存在しており、日霊が使う刀はすべてひと夜の間、奉納している。

 そうすると日霊の力が増す、と言われているからだ。


「ありがとうございます」

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