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迅雷の日霊  作者: イヲ
第四章・シュンポーニアコールム・マギステル
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 喫茶店を出て、急ぎ足で家へ向かう。


「堂元さんは、一度合流してから学校へ向かってほしいと言っていた」

「じゃ、木の鶏がある商店街の入り口で待ち合わせしましょう。あそこならすぐに学校へ行けるわ」

「わかった」

 

 途中で夜凪と別れて、家へ急ぐ。

 わずかに吹雪いているが、これくらいなら大丈夫だろう。

 息が白い。

 走って、10分ほどたっただろうか。家について真っすぐに仏間に入り、刀掛けにかけている凍華を取る。

 これでアラミタマと対峙するのは初めてだ。

 緑色の絹の布で凍華をくるみ、肩にかける。

 

「よし」


 強くうなずき、ほおを両手でぱん、と軽く叩く。


「よろしく頼むわよ。凍華」


 ひとこと、呟いてから再度家を出た。

 外の吹雪はやんではおらず、わずかだがひどくなっている気もする。

 このまま強くなれば、不利になるだろう。

 けれど、天候まではどうすることもできない。


「髪の毛……結って来ればよかった」


 ぱたぱたと、耳のあたりで髪の毛がなぶられる音がする。


 木の鶏がある商店街の入り口には、すでに夜凪が立っていた。

 黒の、膝丈まであるロングコートを着ている。

 そういえば、初めて夜凪と会った時も、おなじコートを着ていた。


「おまたせ」

「ああ。それが、凍華か」

「そう。重さも刀身の長さも、八握剣と同じよ」

「――吹雪いてきたな。急ぐぞ」

「ええ」


 積もってはいないし、地面も凍ってはいない。走る分には問題ないだろう。

 躑躅には、不安があった。

 アラミタマに憑かれていた連続殺人事件の犯人と戦った時のことだ。

 彼女の目から、血のようなものがあふれていた。

 今回も、そうなってしまうのではないだろうか。

 そうなれば、足を引っ張ってしまう。

 けれど、ウイスタリアから電話がきたということは、遊糸も許可を出したということだ。

 伏が遊糸に報告をする、と言っていたのだし。

 忘れていたわけではないはずだ。


 走っておよそ5分たっただろうか。遠くから、剣技の音が聞こえる。


「音がする。きっと、先に来ていた人たちね」

「……? 聞こえないが」

「え、そう? まあ、とにかく急ぎましょう。嫌な予感がする。……っ!」


 思わず、呼吸を忘れてしまうような激痛が、目を襲う。

 立ち止まり、両手で顔を覆った。

 またか。

 また、足を引っ張るだけしかできないのだろうか。


「夜天光!」

「だい、じょうぶ。前みたいに、血は出てないから……!?」

 

 思わず、目を見開く。

 視界がかすかに歪んでいた。

 歪み、そしてまるで望遠鏡をのぞいたかのような違和感。

 そしてその通りだということに気づいた。

 これは今、遠くを覗いている(・・・・・・・・)ということに。


「え……?」

「夜天光、大丈夫か?」

「う、うん……」


 そして、その光景は人間の形をしている一体のアラミタマと、日霊が二人。

 苦戦しているようだった。


「急ぎましょう。苦戦しているみたい」

「……ああ」


 一度またたきをすると、もう違和感はなくなっていた。

 視界も正常だ。

 それから数分走ったところで、アラミタマの姿と、日霊が二人、にらみ合っているのが見える。


「加勢します!」

「助かる」


 額と腕に血がついている男性と、ほおに傷をおった女性が、刀をアラミタマに向けていた。

 

「ずいぶん、大きいですね」

「ええ。人を、襲っていたの」

「その人は?」

「最初三人で対処しに来たから、そのうちの一人が担いで逃がした」

 

 額に血をにじませた男性は、袖で血をぬぐいながら答えた。


「……血が。大丈夫ですか?」

「ああ、これくらいどうということもない」

「それに、このアラミタマ……。動かないですね」

「こちらの敵意に反応しているようなの。知性があるみたい」


 凍華を鞘から抜く。しゃらり、と、ガラスが鳴るようなうつくしい音色をたてて、刃を向けた。

 刀身は雪のように純白だった。

 柄糸も、白銀にも近い白。

 凍華の銘のとおり、凍りそうなほどに美しい刀だ。


「私が、一歩踏み込みます」

「夜天光」

「大丈夫。今はとても冷静よ。それに、凍華にも慣れなきゃ」


 夜凪が心配なのか躑躅の名を呼ぶが、彼自身から見ても、躑躅は冷静のようだった。


 それにしても、このアラミタマはひどく落ち着いているように見える。

 知性があるにしても、あまりにも静かすぎだ。

 体調およそ2m。

 それほど巨大ではないが、まるでマネキンのように立ちすくんでいるように見えた。


 じゃり、とつま先で小石を踏み、凍華を構える。

 吹雪のなか、アラミタマを険しい目で見つめるが、ぴくりとも動かない。

 小康状態のままでは、勝負はつかないだろう。

 凍華を持つ躑躅は、浅い呼吸を繰り返し、息を吸った瞬間、左足をバネのように伸ばし、アラミタマに突っ込む。


「……!?」


 軽かった。

 先日行われた、連続殺人事件の犯人に憑いたアラミタマと戦った時の刀よりも。


「……ぎ」


 体がもっていかれそうになるが足で踏ん張り、アラミタマに袈裟斬りを仕掛けた。

 アラミタマは、重たげな声を発し、長い腕をムチのようにしならせる。


「させない!」


 女性の日霊がその腕を切りつけると、血の代わりに黒い霧が空気中に流れた。

 躑躅はそれを見届けると、つよい握力で凍華を握りしめ、もう一度足を踏み込む。

 

 ぱちっ、と、何かがはじけるような音がして、アラミタマを見上げる。

 赤い目玉と、体のところどころに、赤い光のようなものが浮かんでいた。

 それに気づき、躑躅はその場から後ろへステップを踏む。

 違和感を感じた。


「みんな! 離れて!」

「!?」


 アラミタマの体から、槍のような物質が噴き出た。

 赤い光が見えた場所から、だ。

 思わず、ぱちぱち、と瞬きをする。


 躑躅の言葉どおりに体を引かなければ、おそらく槍に貫かれていたかもしれない。


「な、なんだ、こいつは……」

「夜天光、おまえ」

「斑鳩くん、そういうのは後! とりあえず、こいつを倒さないと」


 避けられたことでアラミタマは苛立っているのか、足を一歩、踏み出した。


「……ひ……るめ……ぇ」


 躑躅は舌打ちをして、凍華を振りかざす。

 それに夜凪も続いた。

 質量のあるものを切りつけたような、いやな感触。

 ほかの2人も、このアラミタマに刀を突きさす。


「ぎ……」

「……っこいつ!」


 先にいた二人と、夜凪の眉がわずかにひそめられた。


「夜天光。こいつ、体の中で百代を解体しているように感じる」

「!?」


 夜凪の藍色の手ぬぐいの下から、汗がにじみ出ているようだった。

 躑躅の凍華は、すでにアラミタマの体から離れている。


「その子の言う通り。私のも、彼のもよ。まるで、刀を喰っているみたい……」

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