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Dungeon Maker -revision-  作者: 蝉時雨
《死薔薇の園》編
21/36

第一章<20> 剣雄と蛇竜

いやはや……やっとこさ更新出来て一息ついたものの、次話も早いとこ書きはじめないと次はいつになることやら……。

頑張れ、自分。

天国のご先祖様も「お前はやれば出来る子だと思ったんだがなー」って言ってくれるはずだ!

……あれ? これもう諦められてるじゃん。

 唐突ではあるが、ギルドの話でもしようと思う。

 ギルドとは、言うまでもなく同業者の組合のことだが、エンツェリアでは専らダンジョンメイカーの組織をそう呼ぶ。工業区の技術者の団体は既に独自の体系を持つため、『共同体ソリッドソサエティ』などと呼ばれている。

 この体制が確立したのはダンジョンメイカーという職業が国で確立されたのとほぼ同時だが、それより前からギルドは存在していた。

 そもそも人間は非力な存在であって、一人で戦うダンジョンメイカーなどはごく小数だ。ユキトはその少数派で、他の大多数は必ず複数人のチーム、すなわちパーティーを組むのだ。

 そして何事も集団で活動すると、必然的にリーダーが必要になる。

 リーダーはある程度の資質を要する。それがいわゆるカリスマというものだろうが、そういう人間には人が集まるものだ。次第にリーダーを中心に巨大なコミュニティーが生まれる。

 リーダーが一人ならコミュニティーでよかっただろうが、リーダーたる資質をもつ者などそこかしこにいる。そしてコミュニティーは派閥へと変わる。要するに非公式ながらもギルドは昔から存在していたというわけだ。

 協会はそれを管理下に置くことで、体制を確固たるものにした。土台が出来上がっている分、それほど苦労はなかっただろう。もともと暗黙に存在していた不文律を明文化しただけだ。

 こうして生まれたのがギルドである。

 今のエンツェリアにはギルドは数えきれないほど存在する。血盟という繋がりの強いものから、軽い同好会的なの繋がりまで存在する。

 目的も様々で、新参者の支援から、ただ化け物を狩るというダンジョンメイカーの意義から外れたもの、単純に気が合うからなどとより取り見取りだ。

 その数多存在するギルドの中でも有力とされるのが、四大ギルドと呼ばれるエンツェリア王国、首都ネイル最大勢力を誇る四つのギルドだ。

 アルグ率いる加盟総数五百名以上という巨大ギルド《巨人の魂協会タイタンソウルソサエティ》。多くのギルドと繋がり、貴族とも強力な繋がりを持ち、圧倒的財力を備えるギルド《継ぎ接ぎお化けフリッケライガイスト》。最低でもAランクないと加盟できない、戦闘のみに重きを置いた、討伐専門のギルド《刃の血盟クラン・オブ・エッジ》。

 ――そして、

「……どういうつもりだ、蘇芳スオウ

「それはこちらの台詞だ白蓮ビャクレン。こちらは、事と次第によっては貴様を斬る所存だが」

 今現在、僕に刃を向ける男。

 百八十はあるであろう高い身長に、細身ではあるが、服越しからでも解るほどに逞しい体つき。

 名は蘇芳。

 凰州人のみで構成され、また実力は《刃の血盟》にも並ぶ討伐専門の実力派ギルド――《蛇竜ヨルムンガンド》。その総代マスターでもあるその男は、鋭い目付きでユキトを見据えていた。

 本当にどういうつもりだ、向こうから関わってくるなど。


◆◇◆◇◆


 協会の受付を済ませ、人混み掻き分けてとっとと退出したわけだ。アルグに一声掛けるか迷ったが、止めておいたのだが、こうなるなら行っておけばよかった。

 第一区の広場に至るとほぼ同時に、冷気の塊のような視線を感じ、反射的に振り返ると、この男の姿があったわけだ。

 既に刀は抜き放たれている。

 瑠璃天竺で生まれた銘刀《翠鏡月すいきょうげつ》。あれをなぜこの男が所有しているのかは定かではないが、抜刀には明らかに向かない馬鹿みたいな長さの刀剣には意味がある。

 あれは《棘王きょくおう》に伝わる刀剣。

 凰州において、飛燕並ぶ剣の流派。棘王流絶影剣を最高にまで昇華するための刀剣。

 飛燕を落とす剣。

 凰州を抜け出す際に持ち出したのか、それとも正式に譲り受けたのかは知らない。奴の身の上からして前者な気がするが。なんにせよあの剣をユキトに向けるということはすなわちそういうことである。

「……事と次第っつーのはどういう意味だ」

「白蓮。貴様、あの茶番に参加するらしいな」

「だったらなんだ。というか僕をその名で呼ぶな。それはもう捨てた名前だ」

「では《剣雄》。なんのつもりかは知らんが、この状況を面白半分で掻き乱す真似は止めてもらおう」

「面白半分だと……?」

「貴様の行為が面白半分でないとするなら一体なんだ? ……ああ、確かあそこはあの男の死に場所だったか。まさか師への弔いというわけか? それこそ笑わせる」

 普段は表情筋が死滅しているのではないかと思われるほどの無表情な蘇芳の口許に、明らかな嘲笑の笑みが浮かんでいた。

「あんた……殺されたいのか?」

「……ふん、やはりな」

 いつもより冷たい自分の声を気にした様子もなく蘇芳は無視し、そして得心いったかのように一人頷く。

「貴様は名を捨てたと言ったが、貴様の行いそのものが《剣雄》白蓮たらしめている。貴様は過去も捨てきれず、されど前も見れない哀れな男だ」

「……煩い。黙れ」

「図星か。巨人の主に頼まれでもしたのだろうが、貴様のそれは自己満足の自己陶酔でしかない」

「……あんたに、なにが解る」

「解りたくもない」

 見透かしたような物言いに腹が立つ。

 殺したい。

 そう思うほどに。冷たいなにかが喉を通り、腹の底をまで降りていく。目の前の男は口許を吊り上げ、微かに笑った。何様だ。クソ野郎。あいつだって棘王になり損ねた親不孝者だろうに。

 同じ穴の貉ではないか。

「同じ穴の貉とでも言いたげな顔だな」

 軽く読まれていた。

「言っておくが、私と貴様は違うぞ。それこそ胸糞悪い」

 嘲笑するか如く吐き捨てる蘇芳の言葉に、逆に冷静になった。元々、無為に嫌みを言う男じゃない。《蛇竜》とは無関係カカワラズという暗黙の了解があった。それを破ってまで、僕に殺されに来るとは思えない。

 ただ、奴が何を考えているかまでは解らない。

 剣を抜かせることに意味があるのなら、乗ってやってもいい。向こうの撒いた種だ。あいつが言うように、《剣雄》らしく殺してやってもいい。

 蘇芳がどれほどの剣士でも、それくらいはやってやる。

「……少し、甘く見すぎたか。どこかで斬り掛かって来ると踏んでいたがな。なるほど、馬鹿でもない」

「十下の子どもにボッコボコにされて悔しくて凰州から逃げ出したあんたよか大人だと思うけどな」

「……互いに嫌な過去を知っているから尚更か」

「で。結局なんの用だ? ウザいから消えてくれ。即刻。なんならこっちから消えてやってもいい」

「こちらもそのつもりだ。ただ貴様の真意を知ろうと思ってな」

「真意ね……この一連の茶番に最も縁遠い《蛇竜》の大将がか。もしかしてパシリか?」

「貴族との関係が薄い点は他より自由の利く身だが、こちらにも事情はあるのでな」

「あっそ」どうでもいい。

「《死神》が茶番劇を惨劇に変えかねないという見解がなされている。刃と巨人の意見は少々違うようだがな」

 それでわざわざ総代が足を運んだというわけらしい。

 まあ、予想をしていなかったわけではない。TSSだけの意見がまかり通るような国ではない。首都ネイルの勢力のバランスは歪で危うい。それぞれの利害関係によって成り立った国だ。

 この場合に文句を言うのは目の前の《蛇竜》と《継ぎ接ぎお化け》の方だろう。CoEの連中はそこまで気に留めないはずだ。

「《白い死神》と同行して壊滅したパーティーの数は十六。死んだ人間は四十人超。異常な数値だな。普通なら生き残りなどいないのだから、そんな数字にはならない。必ず一人生還する貴様だからこそなし得たことだろうな」

「……それで、疫病神の僕には大人しくしていて欲しいということか?」

「貴様の剣は殺す剣だ。それを履き違えているのなら――」

「言いたいことは解った。だがこちらにも事情はある。だから条件を出そう。それで納得できないなら……これで決めようか」

 蘇芳の言葉を遮り、腰の刀に触れる。蘇芳の身体が微かに動く。だがまたすぐに静止し、そして思案しているのだろう、軽く目を瞑り黙り込んだ。

 僕は疫病神だ。Sランクに上がるまで、いや上がってからも、様々なパーティーと組んだ。だがその大半は全滅した。何度居場所を手に入れても、気付けば独りだ。

 それが独りである理由。

 《白い死神》と呼ばれる理由だ。

 それでも、引き下がるわけにはいかないのだ。

「……いいだろう」

 果たして、蘇芳はそれを呑んだ。

「条件を聞こう。それで納得するかは別だ」

「僕は一人でいい。あんたらの邪魔はしない。一人で勝手に動く」

「傲慢だな」

「だが最善だ。違うか?」

「……今夜の会合で話をする。そこでの判断次第だ」

「悠長だな」

「我々は組織なのでな。昔から好きに動けた貴様とは違う」

「別に、好きに動いていたわけじゃないが……」

「話はこれで終わりだ」

「さいで」

 なんでそっちから接触してきてそんな態度なんだ。

 いろいろと納得はいかなかったものの、そんなことで目の前の男と刃を交える気はさらさらない。離れられるならそれに越したことはなかった。

 特に何も言わず、踵を返して貸し宿に向かう。

「――白蓮」

 驚くことに、蘇芳に呼び止められた。その名前で呼ばれると非常に無視をしたくなる。そういうわけにもいかないんだろうな、などと物憂げに振り返り、自分でも解るほど眉を顰めて蘇芳を完全に睨みつけていた。

「なんだよ」

「……一つ、聞きたいことがあってな」

 蘇芳にしては少し弱々しいというか、いつもの傲慢さは見られなかった。まるで本当に聞くべきかなやんでいるかのようだ。

 それが逆にユキトの足をその場に踏み留まらせる。

「貴様が本物の白蓮なら、なぜ生きている・・・・・・・?」

 その問いは。

 僕にはとても辛いものだった。

 だから、すぐには答えられなかった。

 しばしの沈黙を経て、ユキトは徐に口を開く。

「そんなの……僕が知りたいくらいだ」

 あの約束が僕をここに立たせている。

 でも、時々思うことがある。

 なんで生きているんだろう。

 約束がなければ、僕は死んでいるのだろうか。

 自らをこの手で断っていただろうか。

 もしかしたら、自分で思っている以上に自分は脆いのかもしれない。

「……それだけならもう行くぞ。じゃあな、蘇芳スーファン

「ふん……」

 まるで逃げるようにユキトはその場を離れた。

 そうじゃないと、本当に何もかもを引き剥がされそうで、怖かったのだ。


◆◇◆◇◆


「肝が冷えました」

 白蓮……いや今はユキトだったか。あの猛禽か猛獣のような男が“雪兎”とは、思わず笑ってしまいそうになる。だが、今のあの男の後ろ姿はまるで弱々しい。あながち、間違いではないかもしれない。

 去り行く背中を見送り、それと入れ替わるようにして部下である女がこちらに歩いていく。

 闇色のスーツに身を包み、腰には銘刀《胡蝶》が吊られている。

 蒼樹ソウジュ。それがこの女の名だ。

 凰州の一心會というそこそこの剣武會に所属していたらしい、そこそこ腕の立つ女だが、本領は事務作業などだろう。参謀としてもよく働いている。

 小数精鋭の《蛇竜》にとっては貴重な人材だろう。

「いつ斬り合いになるか、か?」

「そうなればわたくしどもには止められませんので」

「そうだろうな。あれとやり合うには骨が折れる」

 あまり気分のいい話ではない。飛燕の剣はもとを辿れば神殺しの剣だったのだ。棘王の歴史と比べても、明らかに次元が違う。

 遥か昔、凰州の霊山《天龍嶽》には龍が住んでいた。龍は神として崇められていた。それゆえ人身供儀が古来より行われていたが、凰州を統べた帝が龍の神格化を禁じ、人身供儀を悪しき慣習と撤廃した。

 本当に龍が神だったのか、それとも何か別の原因かは不明だが、それ以来龍が活発化し、暴れだしたという。嵐と雷がまるで怒りを顕わにするかのように凰州を襲った。

 人々が恐れる中、ただ一人、三本の剣を携えた剣士が現れ、荒れ狂う龍を屠り、そして嵐は収まり、凰州に平和が訪れた。

 その剣士が初代飛燕と言われている。

 神殺し。屠龍の刃。鼻で笑えたらどれほどいいだろう。

 白蓮は龍を殺したことがある。

 凰州では神かもしれないが、エンツェリアではただの化け物。ゆえに被害が予想されるような事態になれば、討伐対象になる。奴がSランクに昇格した依頼こそ、龍の討伐だ。

 およそ二百歳の若竜。

 千年以上生きたであろうものを龍と呼ぶ世の中では、竜と言った方がいいくらいだが、それでも相手は白銀種シルヴィス。凶暴性は随一と言われる竜相手に白蓮は一人で戦った。そして首ごと持って帰ってきた。

 あれこそ化け物だ。

 初めて手合わせをした時以上の衝撃を受けた。

 異常。白蓮は異常者だった。かつては剣の英雄と崇められた男。そう呼ばれるに値する人間を殺してきた。自分があの国を抜け出した後も。そしていつしか《剣雄》は呪われた名となっていた。

 どこであれは異常を通り越して、狂気となったのか。

 そして、今のあの弱々しい姿は一体なんだ。

 あれはそこまで脆い存在だったのか。

 かつての白蓮と似ても似つかない。だがその口調と剣は紛れも無く白蓮。そのぶれ・・が引っ掛かる。本当に奴は白蓮なのかと。

「――総代。なぜ、あのようなことを?」

 蒼樹の言葉に思考を止める。

「何がだ」

「最後の問いです。意味が解らなかったので」

「ああ……あれか」

 なぜ生きている。

 その問いに白蓮は答えなかった。あれは答えられなかったのか。答えたくなかったのか。真意が読み取れない以上は解らないが、やはり奴は白蓮で間違いないのだろう・・・・・・・・・

「総代、あれは本当にあの白蓮なのですよね?」

「……ああ」

「ですが、白蓮は死んでいるはずです・・・・・・・・・

「脱国した者たちの話では、だ」

「彼らは嘘を言っていると?」

「いや、情報屋が言うには事実らしい。白蓮は五年前に処刑されている」

「ではあれは偽物なのでしょうか?」

「私は白蓮を知っている。あれは白蓮だった」

「では……処刑された白蓮とは一体……」

「おそらくは身内の者だろうが……だが解せんな」

「何がです?」

「飛燕流の剣を使う白蓮になりすましたということは、その身代わりも飛燕流を使えるということだ」

 飛燕は代々一人しか弟子をとらない。絶対的な潜在能力を持っていることが前提となるためだ。飛燕を継承出来る人間などそうはいない。あれは人を止めるということと同義なのだから。

「飛燕は二人弟子をとっていたということか……?」

 それほどの逸材がいたということか。それとも別な理由か。

 こればかりは推し量ることは出来なかった。

「あと一つ……」

 これも憶測の域を出ないが、だが自分の想像通りなら。

「光武帝はやはり悪だったのかもしれないな……」


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