第一章<序> 甘い夢の終わり
しとしとと冷たい淫雨が降り注ぐ中、僕はお前の前に立っていた。
傘も差さずに立ち濡れたまま、僕は小さく呟いた。
「……僕は、本当に臆病になったみたいだ……」
震えが止まらない。僕にとって、今までのどの痛みよりも辛かったらしい。本当に耐え難いほどの苦痛だったんだ。解るだろうか。
お前を失ったからだ。
知らない奴を失ったときよりも。仲間を失ったときよりも。友を失ったときよりも。父とも呼べる師を失ったときよりも。
他のどんなものよりも僕はお前を失ったことが一番辛い。
これほどまでに胸が壊れそうになったことはない。かつて、大事な友を失ったあの時でさえも。もはや自らを切り裂いてこの痛みを止めてしまいたいほどだ。そうして何もかもから逃げ出してしまいたくなる。僕はそれほどまでに堪えられずにいた。
でも、お前は言った。
生きて、と。
それはお前との最期の約束。
僕はお前との約束を守ると誓った。
それがお前との唯一の繋がりなんだ。僕はそれさえも失いたくはない。たとえ何もかもから逃げ出しても、お前との思い出だけは忘れたくないんだ。
お前を救えなかった罪はもう償えない。それを許してくれだなんて、口が裂けても言えない。この苦しみから逃れることなど許されはしないのだ。
それでもお前は許してくれるのだろう。いつもの笑顔で「ドンマイ」と言ってくれるのだろう。
解ってる。ただの甘い夢だ。
そんな夢に縋ることは、何より自分が許せない。
この罪は背負い続ける。
そして約束は絶対に守る。
もう僕は辛い現実を歩くしかない。逃げ場のない、悲しい道を。
それで構わない。
ただ、これからもお前は僕の傍にいてくれるだろうか。
尋ねてみたって、もうお前は何も答えてくれない。ああ、解ってる。これもただの甘い夢だ。でも願ってしまう。今もお前はどこかで聞いてくれているのだろうかと。僕の言葉を。僕の想いを。
もしそうならこれだけは言っておきたい。結局、面と向かって言うことは叶わなかったけれど、聞いてほしい。
甘い夢との別れのため、最後に伝えたい。
僕は、お前を――