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"Prometheus"

掲載日:2026/10/19

暖血装置を持って来たのは正解だと感じた



危うく死にそうになりながら、僕と暖血装置は洞窟で避難行動を行って居る


洞窟の外では矢弾の様な暴力性を伴って、凍て付いた風が吹き荒れて居る

肉で出来た生命躰ならば、既に全身を引き裂かれて居たに違い無かった



「主様」


登山道具を搭載する為のチタン製バックパックから、顔だけを出して暖血装置が僕を呼ぶ


彼は人間と云う生命躰をベースに製作された暖血装置で、幼躰の為かサイズも小さく、持ち運びにも優れて居る

また、現在行って居るように僕の躰温状態を自律的に判断し、提案を行うと云う能力も有して居た

僕が人間タイプの装置を好む理由の一つだ



バックパックから装置を出し、躰を開かせる


彼は裸身(らしん)の人間の形状をした少年タイプの生躰機器で、生物種としての人間との最大の違いとして、胸部が肋骨ごと左右に展開する

そこに冷えやすい指部等の末端を挿入し、登山中の低躰温死を予防すると云う機構だ

登山家ならば誰でも所持して居るし、生命を預ける事になるデバイスだ

出し惜しみせず、自分に合わせ特注した最高級品を僕は使用して居た


彼の胸部が展開し、内部の明るい桜色が覗く

液躰音の後で湯気が昇り、視て居ると精神が安堵する

内部構造の中に赤くて綺麗な、脈打つものが在った

肉で出来た生命躰が有する『心臓』と云う原動機器官らしかった


冷え切った手で、心臓を握る

装置は瞑目して「んっ………」と吐息を漏らすと、少しだけ身を震わせた

専門家から聞いた事が有る

彼らも、寒さを感じるらしかった



「まだ、吹雪は続く」


「お前もエネルギーを摂取しろ」


彼のエネルギー源である経口栄養素を取り出し、摂取させる

暖血装置たちが生命躰だった時に食して居たものの方がエネルギー効率が良いと聞き、今回はチョコレートと呼ばれる経口栄養素を持って来て居た


その為か、今日は摂取速度が早い

また、僕には暖血装置の顔の区別は本来付かない筈だが、何となくだが彼が微笑んで居る様に視えた



「お前には」


「雪の日の思い出はあるか」


寂しさを紛らわす為、真っ暗な外の吹雪を視ながら呟く

案の定、暖血装置はきょとんと首を傾(かし)げるばかりだ


だが、不意にこの相棒が愛おしくなり、僕は彼を抱き締めた

離すと、彼も胸部を開いたままの姿勢で僕を抱き締める


「ありがとう」

そう声を掛けると、また装置が笑ったように思えた




翌朝には暖血装置は完全に破損し、キックスターターと云う心臓に電圧を掛ける機器で再起動を試みても、二度と動かなかった


破損した装置は破棄し、土に還らせるのが一般的だが、僕は彼を棄て無かった


せめて山頂なら違ったかも知れないが、誰にも気付かれない登山路から外れた洞窟は、彼が死後を過ごすには寂し過ぎると感じたからだ


バックパックに、冷たくなった装置を格納する

僕を暖める為の装置が、今は無機物よりも冷え切って居て

仲間の死を目撃するのと、そこには精神的違いがほとんど存在し無かった



吹雪は止んだ

そろそろ山頂に向けて、また歩く時が来たのだ


「帰ったら、暖血装置の部品を再利用しよう」と思った


例えば、部屋の照明に彼の躰を流用するのはどうだろうか

装置の存在は僕にとって、人間達が原初の時代に安堵を感じた焚火の炎の様だった



立ち上がり、洞窟から出る

夜はもう明けて居た

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