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ジャックスの言葉は、叱責というよりも、長年の経験からくる“教え”そのものだった。
セリオは思わず息を呑む。
「……周りを、頼る……」
その言葉は、セリオにとって最も苦手なことだった。
諜報員として活動する日々の中で、他者に頼るという選択肢はほとんど与えられなかった。
任務は一人で遂行するもの。
仲間は足手まといになる。
弱みを見せれば命取りになる。
そんな価値観が、骨の髄まで染みついている。
だが、今回の件は一人では解決できなかった。
セリオは拳を握りしめ、ゆっくりと頷いた。
「……はい。肝に銘じます」
ジャックスは満足げに頷き、豪快に笑った。
「よし。お前はまだ若ぇんだ。全部一人で背負い込む必要なんてねぇんだ」
その言葉に、セリオの胸がじんと熱くなる。
タニアも横で大きく頷いた。
「そうよ。セリオはもっと頼っていいの。アタシにも、師匠にも」
セリオは二人の顔を見て、少しだけ照れくさそうに目を伏せた。
「……ありがとう」
その小さな声は、タニアにもジャックスにもはっきり届いた。
ジャックスは腕を組み、にやりと笑う。
「さて。セリオが起きたなら、そろそろ報告しねぇとな。アイツが首を長くして待ってるだろう」
「そうですね。すぐに支度をして、あの方のところへ……」
慌てて身支度を始めようとするセリオに、ジャックスは待ったをかける。
「ちょうどいいものを持ってきた。あれを試そう」
ジャックスに促され、二人はタニアの私室から「香草亭」へ場所を移した。
セリオの看病をするつもりでいたタニアは、本日は店を閉めていた。
ジャックスが持ってきた荷物が、テーブルの一つを占領している。
一抱えほどもありそうな大きさで目を引く。
「オジサン、アレなに?」
タニアが興味深そうに尋ねると、ジャックスはさも得意げに言った。
「連絡用の魔道具だ」
ジャックスが荷を解く。
タニアとセリオは物珍しそうに覗き込む。
木箱の中には、羊皮紙の束と、水晶板が1枚、それから、2つのコップのようなものが何かに固定されている装置が入っていた。
ジャックスは、それらを取り出しテーブルに置く。
それぞれ、魔石が嵌め込まれている。それが起動用スイッチなのだろう。
「見たことのない魔道具ですね……」
セリオは見たこともない魔道具に首を捻る。
タニアはと言うと、目をキラキラさせてその装置を見つめている。未知の道具を前に興奮を隠せないようだ。
そんな二人の様子を楽しげに見ていたジャックスが、説明を始めた。




