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タームの匂いも、生温い空気もない。それどころか、スッキリとした爽やかな香りがセリオの鼻をくすぐった。
その香りに誘われるように、セリオは重い瞼を持ち上げる。
ぼんやりとした視界の中、目に飛び込んできたのは、見知らぬ天井だった。
セリオは、慌てて体を起こす。すると、その拍子に額から何かが落ちた。それは濡れタオルだった。
(これは……?)
視線を巡らせれば、そこは簡素な部屋だった。窓のない板張りの部屋の隅には鏡台が置いてあり、その近くには小さなテーブルセットが置かれている。
そして、セリオの寝ていたベッドのすぐ横にはタニアがいた。タニアは椅子に腰掛けたまま、眠っている。
途端にセリオの意識が鮮明になる。
(あの後、どうなったんだ?)
セリオはベッドから飛び降りると、タニアの肩を強く揺さぶった。
その振動で目を覚ましたタニアは、セリオの姿を目にした途端、くしゃりと顔を歪めた。タニアの瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。
「よ、よかった……セリオ。よかった……。アタシ、何もできなくて」
泣きじゃくるタニアを前に、セリオはどうしていいかわからず立ち尽くした。とりあえず、手にしていた濡れタオルを差し出してみる。
タニアはそれを受け取り、ゴシゴシと顔を拭いた。
それから顔を上げる。その目はまだ潤んでいたが、もう涙は流れていなかった。
「どう? 体の調子は?」
タニアに問われて、セリオは自分の体を検めてみる。魔力枯渇による倦怠感はもうない。意識もはっきりとしているのでタームの影響もないだろう。
「問題ない。それで、俺はどのくらい寝ていたんだ?」
「丸一日よ」
タニアはセリオが眠っていた間のことを話した。
救出したタームの被害者は、解毒後もまだ目覚めない者ばかりだったが、全員、家族のもとへその身を返された。今後は街の治療院によって、経過が観察されるらしい。
そして、ジャックスが捕らえたという今回の事件の首謀者は、現在傭兵ギルドにその身柄があるが、近々、国の統治局に引き渡されることになっている。そこで尋問を受けることになるそうだ。
また、傭兵ギルドによって森の中の捜索も開始された。今後発見されたタームは、統治局によって厳重に保管されることになった。
セリオはその話を聞きながら、自分の不甲斐なさに唇を噛んだ。
(任務の途中で、意識を失うなんて)
セリオの胸の内など気がつかないタニアは、明るい声で言う。
「事件が解決したのは、全部セリオのおかげ」




