5-19
なんとか全員が水薬を飲み下したのを確認すると、今度は魔石を取り出し、水魔法で全員を洗浄する。
タニアを介抱した時と同じ要領で作業を進めていくが、彼らがどれだけタームを摂取したかもわからないため、回復の目途がつかない。
それに、今回は魔法を行使する対象者が多いため、魔力量の少ないセリオには少々骨の折れる作業となった。
3本目の魔力回復薬に手が伸びた時、セリオの視界が揺れた。酷い倦怠感に思わず膝をつく。
(くそっ)
魔力回復が追い付かない。だが、まだ洗浄作業は終わっていない。ここで倒れるわけにはいかない。セリオは歯を食いしばり、何とか立ち上がる。体を岩肌に預け、再び魔法を行使し始めた。
その時、ジャックスが穴へと入ってきた。
ジャックスは苦しそうに顔を歪めるセリオの様子を見て、目を剥いた。
「おい! どうした?」
「なんでもありません。少し魔力枯渇を起こしているだけです」
セリオはジャックスを気にする余裕もなく、水魔法を使い続ける。
ジャックスはすぐさま駆け寄り、セリオの手から魔石を取り上げた。
「何をするんです、師匠! 処置がまだ終わっていないんです」
セリオが魔石を取り返そうと手を伸ばす。しかし、ジャックスはそれを躱した。少し避けただけだが、セリオはそんな些細な動きにすらついていけなかった。
セリオの動きが止まる。ダラリと腕を下ろし、放心したようにズルズルとその場に座り込んだ。
ジャックスはそんなセリオの様子を見て、大きく息を吐いた。
「もう一人、被害者を増やすつもりか」
ジャックスは弟子を静かに見下ろしている。
「お前はもう限界だ。そろそろ他のギルドの奴らも集まってくるころだ。あとはそいつらに任せろ」
ジャックスはセリオの肩に手を置いた。
セリオは顔を上げない。ただ、ゼイゼイと荒い呼吸を繰り返していた。
ジャックスはそんな弟子を巣穴に残し、力なく横たわっている被害者たちを両肩に担ぎ上げ、外へと向かった。
セリオは視界から師匠の背中が消えても、そのまま岩肌に体を預けていた。
タームの甘ったるい匂いと、生温い空気が充満した巣穴は、まるで巨大な生物の胃袋の中にいるようだった。セリオはその匂いに顔をしかめる。
(ダメだ……)
目を閉じた瞬間、頭が揺れた。徐々に意識が遠のいていく。そのまま意識を手放そうとした瞬間、セリオの頬に衝撃が走る。
「正気を保て」
ジャックスは、セリオと最後の一人を両肩に担ぎ上げ、大股で巣穴の出口に向かう。
雑な移動の衝撃で、セリオの頭が揺れる。その揺れが、なんとかセリオの意識を繋ぎ止めていた。
「……すみ……ません」
弱々しい声を出すセリオに対して、ジャックスの声は荒い。
「おい、寝るなよ。外に出るまで耐えろ」
セリオは返事をしようとしたが、喉がうまく動かない。かすれた息だけが漏れる。
巣穴の出口が近づくにつれ、外の冷たい空気が流れ込んできた。
タームの甘ったるい匂いが薄れ、代わりに森の湿った風が頬を撫でる。
(外か……)
そう感じた瞬間、どっと疲れが押し寄せてきた。セリオは薄れゆく意識の中、ジャックスが怒鳴る声を聞いた気がした。
「行方不明者だ。まだ息はある。手を貸せ!」
(彼らの体を、風魔法で乾かして……)
「おい、そっちの兄ちゃんも顔色が……」
(彼女のところへ……)
「こいつは俺の弟子だ。俺が運ぶ」
(……師……匠)
そこでセリオの意識は途切れた。




