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その声音には、いつもの軽さは微塵もなかった。厳しい表情の下には、弟子を心配している様子が感じられる。
しかし、セリオはきっぱりと首を振った。
「いえ、俺だけで。まずは様子見ですから。それにこの穴では師匠の大剣は振り回せないでしょ」
ジャックスは大剣を肩に担ぎ直し、巣穴を覗き込む。そして渋々と了承の意を示した。
「……何かあればすぐに引き返して来い」
セリオは、ジャックスに頷き、巣穴の中へと入って行く。
ターム避けに風魔法を纏っているのに、湿った土と獣の匂い、そして重く甘い匂いが混じったような気持ちの悪い空気が鼻腔にまとわりつく。
セリオは自身を守る風の壁を魔力で強化する。
森へ入ってからずっと風魔法を発動しているため、元々少ないセリオの魔力は枯渇寸前だった。
魔力回復薬は持っているが、ここぞという時に使いたい。セリオは、なるべく早く解決する事を願って、その歩みを早めた。
壁には魔鼠が削ったと思しき跡が無数に残っていたが、幸い道は一本道で、奥へ奥へと伸びているだけだった。
ひたすらに道を進んで行くと、やがて開けた場所に出た。
多くの魔鼠がその身を寄せ合っていた場所なのだろう。魔鼠の体毛らしき毛玉が、そこかしこに転がっている。多くの魔鼠がここに巣くっていたことが伺えた。
しかし今は魔鼠の姿はなく、代わりに穴の隅には、数人の人間が転がっていた。
(いた)
セリオは素早く駆け寄る。
手足を縛られ、目隠しと猿ぐつわをされて転がっていたのは、全部で五人。
被害者は皆成人前のようだ。奴隷として売るには、もってこいの年頃。被害者の年頃が似通っているところを見ると、タームは年若いものにより影響を及すのだろうか。
被害者の近くには、焚き火の後もしっかりと残っている。ここでターム漬けにしているのは明白だった。
皆、意識を失っているようでピクリとも動かない。セリオは声をかける。しかし誰からも返事はない。
どの体も冷え切っていた。だが、弱々しいながらもまだ息があった。
セリオはいよいよ魔法回復薬を口にする。
そして、ポケットから紙片を取り出し、サラリと書きつけると、それを小さく折りたたむ。
それに風魔法を付与すると、小さな紙片はまるで蝶のようにパタパタと羽ばたきながら、巣穴の出口へ向かって飛んでいった。
ジャックスへ状況を知らせるための手紙を飛ばしたセリオは、次に水薬を取り出した。
少しでも症状が軽くなればと、倒れている者に水薬を飲ませる。




