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大股で出て行こうとして、思い出したように、もう一度父親に声をかけた。
「ああ、そうだ。嬢ちゃんへの連絡も頼んでいいか?」
「ジュヴェントゥス様にかい? 確か、あの方の工房は東の森だったね。でも、強力な結界が張ってあるのだろう? ちょっとやそっとじゃ誰も近づけないはずでは?」
「ああ、その点は心配してねぇ。だが、嬢ちゃんの好奇心は並みじゃねぇからな。この国に生息していない魔樹の騒ぎだなんて知ったら、喜んで駆けつけて来そうだ。だから、くれぐれも首を突っ込まないように釘を刺しておいてくれ」
困ったようにそう言うジャックスに、男性は納得した様子で頷いた。
全ての連絡を父に託し、ジャックスはタニアを担ぎ直すと、風のように走り出した。その速さはタニアの全力疾走など比ではない。担がれたままのタニアは、ジャックスの肩の上で、暴れるのをやめた。タニアは舌を噛まないよう歯を喰いしばるので精一杯だった。
あっという間に「香草亭」に帰り着くとジャックスはタニアを庭先に降ろした。それから少し渋い顔をする。
「それじゃあ、俺はこれからセリオの所に行ってくるが、お前は……」
どのようにタニアを言い含めようかと思案するジャックスの言葉を、タニアは遮った。
「大丈夫。アタシはここで待ってる」
ジャックスは目を大きく見開き、驚きを隠せない様子でタニアを見る。てっきり朝のようにまた我を通して、一緒に行くと言い出すものと思っていたのだろう。ジャックスは心の中で驚きながらも、その選択を評価する。
「そうだな。お前もタームの影響がまだ残ってるかもしれねぇ。無理せず待ってろ」
ジャックスはそう言うと、タニアの頭をポンと叩いて、またも疾風のように走って行ってしまった。
タニアは一人取り残された。そしてしばらくの間呆然と立ち尽くしていた。しかし我に返ると、しっかりしろと叱咤するように自分の両頬をパンパンと叩く。
そしてタニアは、セリオに言いつけられた通り、解毒に効く薬草の用意をするため家の中へ入って行った。
その頃、セリオは森の奥深くで懸命に行方不明者を捜索していた。風魔法を薄いヴェールのように自身に纏わせて防御壁としているので、タームに惑わされることはない。しかし、それはタームの匂いを辿れないということでもあった。
セリオは暗い森の中、慎重に人の痕跡を探った。下草の踏み荒らされ方や、切り払われた細い枝。そんな些細な痕跡を見逃さないよう、目を凝らす。




