5-12
「わかった」
渋々といった様子でタニアは頷く。しかし納得したわけではない。それはセリオにもわかっていたが、あえて口にしなかった。代わりに別の言葉をかける。
「今度は必ず見つけてくる」
「うん……」
タニアは小さな返事をした。タニアの目に涙が滲む。しかしそれは悲しみからではない。悔しさと不甲斐なさからだ。ぐっと唇を噛んで、タニアは俯いた。そんなタニアにセリオは声をかける。
「きみのところには、解毒に効くハーブは置いていないのかい?」
タニアはゆっくりと顔を上げる。セリオの質問の意図がわからず、タニアは首を傾げた。
「解毒? 腹くだしに効くやつとか、水毒に効くやつとかならあるけど」
タニアがそう問い返すと、セリオは小さく頷いた。
「体に蓄積された毒が排出されるものなら何でもいい」
「なんでもって……」
タニアは戸惑った表情を浮かべる。セリオはそんなタニアに冷静な口調で告げる。
「とにかく、用意しておくんだ。基本的には、俺の持っている水薬を使うがそれも数に限りがある。行方不明者は見つけ次第、ここへ運ぶ。きみはここで救護の準備。いいな?」
その言い方はぶっきらぼうだったが、タニアにはちゃんと意味は伝わっていた。セリオは、タニアにもできることがあると言っているのだ。タニアは目を大きく開いてセリオを見つめた後、しっかりと頷いた。
二人はもう一度頷き合うと、それぞれの役割を果たすために別れた。
タニアは、まずはジャックスのもとへ走る。セリオの考えを伝え、救援を求めるためだ。
セリオは、まだ森に拉致されているであろう行方不明者の捜索のため、一足先に森へと戻ってしまった。
行方不明者の安否は、一刻を争う。少しのもたつきが結果を左右する。そう思うと、タニアは怖くて仕方なかった。しかし、怯えている場合ではない。
タニアは息が切れ、脇腹に鈍い痛みが走るのも構わずに、一心不乱に走る。息を切らせながら就労斡旋に向かう。
もう明け方近かったが、それでも始業開始にはまだ早い時間。就労斡旋所の扉は閉まっていた。
「オジサン! ねぇ。オジサンってば! いないの?」
タニアはドンドンと扉を叩く。こんな時間にいるはずはないと頭の片隅で思いながらも、タニアにはここしか頼るところはなかった。タニアは諦めずに扉をたたき続けた。
しばらくすると、タニアが叩き続けている扉ではない扉がゆっくりと開く。顔を覗かせた初老の男性は、タニアの姿を認めると驚いたように言った。
「お嬢さん。このような時間にどうされましたか? そちらのプレースメントセンターが開くのは、もう少し先の時間ですよ」
初老の男性は、タニアの常識外れな行動を咎めることはせず、むしろ、こんな時間にこんな場所にいることが心配でならないといった様子だ。
タニアはそんな男性にすがるように言う。
「ここのオジサン……所長に会いたいの。どこに行けば会えるか知ってる?」
タニアは、初老の男性に必死で訴えた。すると男性は、タニアのただならぬ様子にやや思案した後、口を開く。
「どうやら相当お急ぎのようですね。私が所長を呼んであげましょう。お嬢さんはここで待っていなさい」
初老の男性は、扉の奥へ引っ込み、程なくして戻ってきた。そしてタニアに向かってニッコリと微笑む。
「連絡をしましたから、じきに来るでしょう」




