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これはただごとではないと判断したセリオは急いで引き返そうと踵を返した。今すべきことはタニアを安全な場所まで連れ帰ること。そう思った。しかし、それはタニアの小さな抵抗により、阻まれた。
タニアは暴れるわけではなかったが、どういうわけか、セリオの腕から逃れようと体を捻る。仕方なくセリオは、タニアの体をしっかりと抱え込み、帰途を促す。しかし、タニアは頑としてその場から動こうとしない。うつろな表情とは真逆な、強い意志をもって動かないようだった。
連れ帰るのは無理だと判断したセリオは、タニアを拘束していた腕の力を少しだけ緩めた。とりあえず、近くの木の根元にタニアを座らせる。どこかへ行ってしまわないよう手だけは繋ぎ、セリオもタニアの隣に腰を下ろした。
(一体どうしたというんだ?)
セリオは頭を抱えた。危険があるならばすぐにでもその場を離れる。それは密偵をする上では基本のこと。だがそれができない以上、何とかしてほかの回避策をとらなくては。
どうしたものかと思案しながらセリオは、何気なくタニアの様子を伺う。心ここにあらずという感じではあるが、身体的不調はなさそうだ。ひとまずは大丈夫だろうと判断したところで、ふとタニアの違和感に気がついた。
無表情のタニアは、暗い森の奥へ視線を向けている。そのうつろな瞳には何も映していないようだったが、思い返してみれば、ずっと同じ方角を気にしていた気がする。タニアは確かに何かに引かれている。セリオはそう感じた。




