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夕餉の時間はとっくに過ぎ、外はもう真っ暗になっていた。ヤキモキしながらタニアは一人、ギルドでセリオを待っていた。昨日と同じように、鞄に飲み物とクッキーを入れて、準備は万端だ。
(まさか、来ないなんてことはないよね)
タニアは、疑心暗鬼になりながら何度も室内をウロウロと往復していた。何往復目かで、ようやく待ち人が姿を現した。
セリオは昼間の旅装束から闇夜に紛れるような全身黒の装束に着替え、さらに口元を布で隠していた。その姿はどこからどう見ても怪しい。
「何よ。その格好。夜の森へ行くのに、そんなに黒くちゃ見失うじゃない」
タニアの最もな意見に、セリオは真顔で答える。
「夜の森で活動している魔獣には、夜目が利く種類が多い。こちらの居場所を悟られないようにするには、闇に紛れる黒衣が最も有効な手段なんだ。森へ行くのにおしゃれなんか必要ない。君もなるべく目立たない服装にしてくれ」
自身の服装にダメ出しをされ、タニアはムッとした。しかし、ここでセリオの指示に従わなければ同行を拒否されかねないので、しぶしぶと従う。
タニアが黒の外套で頭からその身をすっぽりと覆い隠すのを待って、セリオが縄を一本手渡してきた。怪訝そうな顔をするタニアに、セリオは当然のように言う。
「師匠から聞いた。昨夜、森で記憶を無くしたのだろう?」
「ええ。気がついたら、森の中にいたの」
「また今日もそうなってはぐれてしまっては困る。だから、君と俺を繋いでおく」
その言葉にタニアは恨めしそうにセリオを見たが、それが自身の安全のためだと言われては、黙ってそれを受け入れるほかない。
タニアが葛藤をしている間に、セリオはさっさと縄の端を自分の手首に巻き付けた。仕方なくタニアもそれに習い、自分の手首に縄を結ぶ。
これで、はぐれる心配はない。しかし、タニアの心中は複雑だった。
(本当にこんなことまでしなくてはいけないの?)
タニアの心中などお構いなしに、セリオは縄を二、三度引っ張り、しっかりと結ばれていることを確認した。そして、二人はいよいよ森へ向けて出発した。
月明かりに照らされていても、夜道は薄暗い。その中をタニアとセリオは無言で歩く。何か話題を探そうと思っても、なに一つ思いつかない。
(うう……何を話せばいいんだろう)
半歩前を歩くセリオの背中を見ながら、タニアはため息をついた。タニアがセリオとの距離感に悩みながら歩いているうちに、森の入り口へ辿り着いた。




