4-11
特殊な場所には、それなりの理由がある。タニアは今更になって、そのことを実感した。不安が顔に出ていたのだろう。セリオが軽い調子でタニアに声をかけた。
「さっきは脅かして悪かったけどさ、俺たちの仕事にはああいうことが付きものなの。君は早く手を引いたほうがいい。正直、覚悟のない人間は邪魔なだけだから。それに、あの方に忠実になれない奴を、俺は認めないから」
タニアは、セリオのその言葉にムッとした。言い方が気にくわない。しかし何よりも、彼の言うことに一理あるのが悔しかった。正直、先ほどは身の危険を感じて怖かったし、何もできなかった。それに、オーナーに対しては、忠誠心なんて今のところ全くない。
しかし、ここで引き下がるのも癪だった。タニアは椅子を鳴らして立ち上がり、セリオを真正面から睨みつける。そして、フンッと鼻を鳴らした。
「あなたに認めてもらわなくったって、全然構わない。アタシにはアタシの事情があるの。まだ顔も見たことないオーナーに忠誠心なんてこれっぽっちもないけど、アタシは自分のためにこの仕事を選んだの。そのためにこの仕事をやるって覚悟もできてる。あなたにとやかく言われる筋合いはないわ」
タニアは怒気を含んだ声で宣言した。それはまるで宣戦布告のように響いただろう。だが、本当のことを言えば、単なる強がりだった。ギルドの受付が、身の危険と隣り合わせの仕事だなんて想定していなかった。覚悟なんてできているわけない。しかし、むざむざ引き下がるのも嫌だと感じたのも事実。
タニアが鼻息荒く睨みつけていると、セリオはキョトンとした顔でタニアを見つめた。それから、フフフと笑う。その不敵な笑いに、タニアは身構えた。しかし、セリオは少し口角を上げただけでそれ以上何も言わなかった。
(優しかったり、怖かったり、挑発してきたり……わけわかんない。この人、苦手だわ)
掴みどころのないセリオの様子にタニアが戸惑っていると、ジャックスが高らかに笑い声をあげた。
「まともにやり合ってると、疲れちまうぞ。こいつはこういう奴だ。適当に受け流せるようになれ」
ジャックスはそう言うと、セリオの頭を軽く小突いた。頭を小突かれたセリオは大げさに痛がって見せる。まるで舞台上の役者のようにコロコロと表情が変わり、その度に雰囲気がガラリと変わる。セリオという人物の核を捉えきれない。
タニアは、セリオという人間の得体の知れなさに軽い畏怖を感じた。




