爽やか笑顔は、敵か味方か(8)
ジャックスはセリオに鋭い視線を向ける。いつもタニアに見せる保護者的な雰囲気とは全く異なる。その鋭い眼差しは、まるで抜き身の刃のようだ。
セリオの笑顔が一瞬だけ固まった。しかしすぐにヘラヘラとした笑みを浮かべて両手を挙げる。
「ちょっとした予行演習ですよ。ね?」
同意を求めるように、セリオはタニアにそう笑いかける。しかし、当のタニアは恐怖で身がすくんでいて、何も答えられそうになかった。
ジャックスは小さく1つため息をつく。厳しい表情を崩さないまま、ゆっくりとセリオに近づく。そして、自分の肩ほどの身長しかない青年の胸倉を掴むと、軽々と持ち上げた。ジャックスは険しい表情のままセリオを怒鳴りつける。
「この馬鹿野郎。いつも言っていただろう。お前は調子に乗りすぎる。その悪い癖を直せって。俺の言葉はお前には届かなかったのか?」
ジャックスの怒声が響き渡る。その迫力はすさまじかった。一瞬でセリオは色を失い、勢いよく首を振る。先ほどまでとは違う緊迫感に、放心していたタニアが慌てて立ち上がった。ジャックスの太い腕に取り縋る。
「オジサン、やめて。アタシは大丈夫だから。その人を放して」
タニアの必死の懇願に、ジャックスは小さく舌打ちをしてセリオから手を離す。ドサリと音を立てて床に落とされたセリオは、そのままへなへなと崩れ落ちた。
タニアも再び力無く床に座り込んでしまう。ジャックスはそんなタニアの頭を大きな手でクシャリと撫でると、真剣な眼差しを向けた。
「この馬鹿が、怖い思いをさせたな。すまなかった」
ジャックスの労るような眼差しに、タニアもようやく少し落ち着きを取り戻し、小さく横に首を振る。タニアのその仕草を、ジャックスは肯定と受け止めたらしい。フッと頬を緩めた。
タニアを椅子に座らせると、ジャックスはタニアと向き合うように座った。
「こいつの性根は俺が叩き直したつもりだったんだがな。どうやら、俺の目は曇っていたようだ」
そう言ってため息をついたジャックスは、床に座り込んだままの青年を睨みつけた。今さっき床に叩きつけられたにも関わらず、セリオはまたヘラヘラとした笑みを浮かべる。そんな青年の様子を見て、ジャックスは諦めたように首を横に振る。
「ったく。お前ってやつは。本当に困った弟子だよ。それで? どうしてお前がここに居る?」
ジャックスの問いかけに、セリオはヘラヘラと笑いながら答える。
「もちろん。あの方のご指示ですよ」




