甘い香りは、事件の香り?(6)
「……そうだね。暗くなってきたから、ちょっと寒いのかも」
鬱蒼とした木々が密集しており、陽の高い時間でも、もしかしたらこの辺りには陽の光が届かないのかも知れない。薄暗くひんやりとした空間をタニアは不安げに見渡す。
(この森から早く出た方がいい)
タニアの本能がそう叫んでいた。しかし、来た道も帰り道もわからない。タニアは少しでも落ち着こうと、女の子を大きな木の根元に座らせる。並んでタニアも腰を下ろすと、カバンの中からハーブティーとクッキーを取り出す。それを女の子に差し出した。
女の子と一緒にクッキーを食べながら、タニアはこれからどうするべきかを考える。
(とにかく、この子を連れて森の入り口まで戻らなきゃ)
クッキーを食べ終えた女の子は、幾分落ち着いたのか涙も止まっていた。女の子がタニアの服の裾をクイッと引っ張る。タニアは女の子と視線を合わせると、優しく尋ねた。
「どうしたの?」
「あのね。お姉ちゃんのクッキー、昨日も食べたの。とっても美味しかった」
その言葉が意味するところを悟り、タニアは目を見開いた。タニアが昨日クッキーを渡したのは、例の情報提供をしてくれた男の子だけだ。すると、目の前の女の子は、あの男の子の妹ということか。
あの子は「妹を連れて東の森へよく行っている」と言っていたことを思い出す。タニアは一筋の希望に縋るように、女の子に問いかけた。
「ねぇ。もしかして、森の入り口までの道わかる?」
タニアの問いに、女の子は当然というように小さな胸を張る。
「うん。わかるよ。だって、お兄ちゃんに目印を教えてもらったから」
その答えにタニアは大きく胸を撫で下ろした。これで、森の入り口まで戻ることができる。タニアは女の子に手を差し伸べた。
「よし。じゃあ、森を出よう」
「え? でも。お兄ちゃんが……」
女の子が不安げに、タニアの顔を窺い見る。タニアは安心させるように女の子に笑みを向けた。
「うん。わかってる。森を出たら、すぐに大人の人に探してもらおう。たくさんの人で探したら、すぐに見つかるよ」
女の子は少し戸惑っていたが、やがて納得したのかタニアの手を取って立ち上がった。そして、タニアの手を引いて歩き始める。タニアは女の子の手をしっかりと握る。決してこの手を離してはいけないと本能が告げていた。
しかし、歩いても歩いても森の入り口は見えてこない。タニアは、まるで同じところをグルグル回っているかのような錯覚に陥った。




