甘い香りは、事件の香り?(3)
ジャックスの忠告にタニアは曖昧に頷く。
「今はいい。ここには俺しか居ないからな。だが、ここがどういう経緯で開店したのか、どういう意図で運営されているのか、お前は常にそれを意識しておかなきゃならん」
ジャックスの静かな言葉に、タニアはハッとしたように表情を引き締める。
「客から聞いたことを面白おかしく話す奴がいると思われて、客が口を噤んだらどうする? 変なことを嗅ぎ回っている奴がいると、この拠点を狙われたらどうする? そういうことをきちんと考えにゃならん。いいな」
覚悟を確かめるように、ジャックスがじっとタニアを見つめる。その視線にタニアは真剣な顔で小さくコクリと頷いた。
そんなタニアの様子に満足したのか、ジャックスは話の続きを促した。
「それで、昨日夕方に来たって子どもは、どんな用だったんだ?」
タニアの話はこうだった。
その子は、いつもは東の森の入り口付近までしか行かないのだが、昨日は甘い匂いに誘われ、つい森の奥まで行ってしまったそうだ。匂いの出所がわからない。誘われるがままにズンズンと森の中を進んでいき、やがて、開けた場所に出た。
開けたと言っても広場のような場所ではなく、そこだけ下草が荒らされ、まるで誰かが野営でもしたような跡があったのだという。焚き火跡もあったそうだ。甘い匂いはそこが一番強かったらしい。
そこを見つけた時点で既に森の中程まで足を踏み入れてしまっていたらしく、その子どもは怖くなって慌てて引き返してきたので、それ以上のことは何もわからないと言う話だった。
「森の中で野営って、なんか怪しくない?」
室内には誰もいないのに、タニアは真面目な顔をして声を顰めた。ジャックスは顎を撫でながら考えを巡らせる。
「だがなぁ。野営なんて、冒険者や傭兵でもするからなぁ」
ジャックスは眉間に皺を寄せながら、さらに考えを巡らせる。
普通なら野営の跡などそれほど気にすることではない。しかし、場所が場所なだけに、多少気にかかる。
(東の森か……確認しておいた方がいいかもしれんな)
そう結論を出すと、ジャックスはタニアに顔を向ける。
「まぁ、せっかくの情報だ。俺から奴に伝えておこう」
「奴って、オーナー?」
「ああ」
「もしかして、結構、重要な情報だったりする?」
小首を傾げて興味深げに訊くタニアに、ジャックスはなんでもなさそうな表情を見せる。
「まだわからん。精査するにも野営の跡だけでは、なんとも。とりあえずってとこだ」




