甘い香りは、事件の香り?(2)
そんなジャックスに、タニアはチッチッチと人差し指を振ってみせた。
「甘いなオジサンは。そんな平和ボケした発想をしてちゃ、事件にはありつけないし、この世の中生きてけないわよ」
呆れたように言うタニアに、ジャックスは面倒くさそうに眉根を寄せた。
(平和ボケなぁ……)
ジャックスはハーブティーを飲み干し、カップを静かにソーサーへ戻す。大柄なその体躯に似つかわしくないその仕草に、タニアは少し意外そうな顔をした。
「なんだ? 変な顔しやがって」
ジャックスに問われ、タニアは慌てて首を横に振る。
「ううん、何でもない。ただ、なんか見た目と違うなって」
早口でそう取り繕うタニアに、ジャックスは訝しむような視線を向ける。
「オジサン。見た目はコワモテなのに、動きがなんか丁寧というか……雑じゃないよね。どっちかって言うと、アタシの方が雑かも」
アハハと笑いながら、タニアは空になったジャックスのカップにハーブティーを継ぎ足していく。ジャックスは、注がれるお茶を見つめ、口を開いた。
「まぁ、俺にもいろいろと付き合いがあるからな。所作なんてのは、身につけようと思えば、いつからでも覚えられる」
「……そ、そうかな?」
「ああ。一人では身につけるのが難しいようなら、たまに俺の家に来るといい」
「オジサンち?」
ジャックスの言葉にタニアがびくりと肩を振るわせ、動きが止まる。すっかりジャックスのことを信頼していたが、やはりヤバイ人なのでは。そう思い、タニアはゴクリと唾を飲み込む。そんなタニアの様子に気がついたのか、ジャックスは苦笑いを浮かべた。
「おいおい。何を考えているのか知らんが、教えるのは俺の妻だ。お貴族様の勉強にも付き合っていたことのある奴だから、お前に所作を教えることくらいどうってことない」
ジャックスの言葉に、ハッと我に返ったタニアは落ち着きを取り戻す。赤くなった顔をパタパタと手で仰ぎながら、誤魔化すように「アハハ」と再び乾いた笑い声を溢した。
タニアの様子を横目に、ジャックスはカップに口をつける。そして、ゆっくりと深呼吸をするかのような仕草でお茶の香りを楽しみながら口を開いた。
「それからな。さっきのことだが……」
ジャックスの切り出しに、タニアがキョトンとした顔を見せる。その様子を認めながら、ジャックスは続けた。
「平和なのは良いことだぞ。仮にもお前は接客をしているんだ。周りを不安にさせるようなことは、口にするもんじゃない」




