秘密ギルドは、お休み処!?(10)
タニアの質問に、ジャックスは眉をひそめる。
「なんでだ? 何か用でもあるのか?」
ジャックスの問いに、タニアは首を横に振る。
「用は別にないけど、直接顔を見て挨拶した方がいいかなと思って。それが常識ってもんでしょ」
タニアの言葉にジャックスは渋い顔をした。そして、言いづらそうに口を開く。
「働き始めた者としては正しい考えだが、まぁ、奴はここには来ないだろうな」
ジャックスの言葉にタニアは首を傾げた。
「どうして?」
「こんな街外れまでは来るような奴じゃない」
そう話すジャックスにタニアは信じられないというような表情を浮かべる。
「はぁ? 何それ? 街外れだから来ないって、一体何様? もしかして、その人お貴族様か何かなの?」
憤慨するタニアにジャックスはため息をつきながら続ける。
「……まぁ、詮索してくれるな。ただ、秘密裏に情報を集めようなんて輩だ。常に周りを警戒している。そんな奴だから、人前に姿を現すことはあまりないんだ」
ジャックスの言葉にタニアは腕を組ながら考える。
「ふ〜ん。予想以上に厄介な人っぽいね」
その呟きを聞きとめ、ジャックスはニヤリと笑みを浮かべる。
「奴に対する印象は、まぁ、それで間違っていない」
ジャックスの言葉にタニアは複雑な表情をした。雇い主が面倒な人というのは、今後が思いやられる。しかし、とりあえずは顔を合わせることもない人だ。今後会うことがあれば、その時は少し注意して接すればいいだろう。
「まぁ、いいや。で、その人のことをアタシはなんて呼べばいいの? 創設者さんとか、お貴族様じゃマズイでしょ?」
「そうだな……」
ジャックスはしばらく考えたのち、コホンと咳払いをする。
「ひとまず、『オーナー』とでも呼んでおけ」
「オーナー?」
タニアは訝しげにジャックスを見る。
「ああ。『香草亭』に必要な資金も奴に出させる。だから、オーナーでいいだろう」
「わかった。じゃあ、そう呼ぶことにする」
オーナーという響きが気に入ったのか、タニアは楽しそうに笑った。
こうして、タニアのちょっと変わったギルド嬢生活が、静かに、けれど確かに幕を開けた。




