開店初日、異世界コンビニ戦争
夜明け前の王都アルメリア。
露がきらめく街路の先、ひときわ明るい光がともる。
――《Midnight Mart 王都支店》、開店の日である。
「……よし、これで“のぼり”も完了っと」
ユウトは看板を立てながら、ため息をついた。
(異世界初のコンビニ開店が、まさかここまで地獄とはな……)
店の扉が開き、澄んだ声が響く。
「開店準備、ご苦労であるな、ユウト」
金色のマントが朝日に揺れた。
背中まで伸びた銀髪。蒼の瞳が静かに輝く。
「我が名はリゼリア。アルダ王国の使者として、本日も立会う所存だ」
「おはようございます、リゼリアさん。今日も早いですね」
「当然だ。この“開店”は王国にとっての一大儀式。寝坊など断じて許されぬ」
凛としたその姿に、ユウトは苦笑した。
(……こういう真面目な人ほど、トラブルに巻き込まれるんだよな)
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数時間後
開店と同時に――地獄が始まった。
「おにぎりを十個くれ! ツナマヨ以外はいらん!!」
「温泉卵入りポーション、棚にありませんか!?」
「この“おでん”とやら、魔力は何属性じゃ!?」
店内は混乱の渦。
ユウトはレジをさばきながら叫んだ。
「リゼリアさん、ツナマヨ補充お願いしま――」
「補充、すでに三度目である!」
「えっ、もう!?」
「ツナマヨ信者の列が、王都広場を一周しておる!」
(やっぱりツナマヨ強ぇぇ……!)
そのとき、外から重厚な足音。
黒い外套をまとった一団が、店前に立ちはだかった。
「貴様らが……《Midnight Mart》か」
ゼムナ商会会頭――ゼムナ=クロウロード。
冷たい眼差しがユウトを射抜く。
「我ら商会の許可なき商売、断じて認めぬ。価格の均衡を乱す“異界の店”など――王都の恥よ」
「恥でもなんでもいいですけど……客が喜んでりゃ、それでいいんで」
「ほう。ならば“経済”で勝負だ」
ゼムナが杖を掲げる。
魔法陣が地を覆い、周囲の空気が歪んだ。
――《価格上昇》
店のポスターが一斉に書き換わる。
「ツナマヨおにぎり 5000G」。
「なっ!?」
「う、売れぬ……!」
客がざわめく中、リゼリアが一歩前へ出た。
その瞳が、青く光る。
「このような卑劣な魔法、王国法にも反する! 貴様らの策、ここで断つ!」
マントを翻し、彼女は杖を構えた。
「――《契約解除》!」
蒼光が店を包み、魔法陣が霧散した。
ポスターが元に戻る。
「ツナマヨおにぎり 200G」
客たち「買うッッ!!!」
ゼムナの顔が引きつる。
「まさか王国魔導士まで味方につけるとは……!」
ユウトが肩をすくめる。
「こっちはチームですから」
怒号と笑い声の中、《Midnight Mart 王都支店》は伝説的な初日を迎えたのだった。




