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名の王より怖いもの(翌朝)

翌朝。

Midnight Mart 王都支店は、いつも通りだった。

蛍光灯は少しチカチカしているし、

ホットスナックのケースは一段だけ空で、

入口のマットは相変わらずズレている。

――違うのは、

昨日“世界が滅びかけた”という事実だけだった。

ユウトはレジ前に立ち、虚ろな目でバーコードを読み取っている。

「……ピッ……ピッ……」

(……ほんとに昨日、名の王とか来たんだよな……?)

ふと床を見る。

綺麗に直っている。

青く焦げていたはずのタイルも、

影に侵食されていた線も、

すべて――なかったことになっていた。

ユウト 「……いやいやいや……」

バックヤードの扉が開く。

のそのそと出てきたのは、

昨日と同じく目の下にクマを抱えた店長だった。

店長 「……おはよ……」

ユウト 「おはようございます……って、  ちょっと待ってください」

店長はエプロンをつけながら言う。

店長 「なに……?」

ユウト 「床……見ました?」

店長 「……床?」

店長は床を見て、首を傾げた。

店長 「……いつも通りじゃん……」

ユウト 「昨日!

 ここ!

 世界の境目になってましたよね!?」

店長 「……あー……」

店長は少し考え込むように目を細め――

店長 「……夢じゃない?」

ユウト 「夢で棚が三つ吹き飛びません!!」

そのとき、裏口の方から気配がした。

リゼリアが、いつもの落ち着いた様子で現れる。

リゼリア 「おはようございます、ユウト殿」

ユウト 「おはようございます……  あの、床……」

リゼリアは床を見て、静かに答えた。

リゼリア 「完全修復されていますね。  結界が“常時安定状態”に入っています」

ユウト 「結界……?」

リゼリア 「はい。  おそらく――」

ちらり、と店長を見る。

リゼリア 「この方が店内にいる限り」

店長 「……?」

アリシア王女も裏口から現れ、腕を組んだ。

アリシア王女 「昨夜の戦いの痕跡が一切ない。  これは異常だ」

老人も続いて姿を現す。

老人 「名の王ですら痕跡を残したというのに……  完全に“上書き”されておる」

ユウト 「……上書き?」

老人は店長をじっと見つめ、ぽつりと言った。

老人 「この者……  “日常”そのものを世界に固定しておる」

ユウト 「……え?」

店長は缶コーヒーを開けながら言う。

店長 「……ツナマヨ……  今日入荷ある?」

ユウト 「ありますけど!

 今それどころじゃなくて!!」

リゼリア(小声) 「……恐ろしい……」

アリシア王女 「剣も魔法も通じぬ……  だが“日常業務”には逆らえぬ存在……」

老人 「名の王が“名”を支配するなら……  この男は“日常”を支配しておる……」

店長 「……?」

店長は何も知らない顔で、レジに立った。

店長 「ユウトくん」

ユウト 「はいっ!」

店長 「……今日、棚卸しだから」

ユウト 「世界の危機のあとに棚卸し!!?」

店長 「……当たり前でしょ……」

リゼリアは深く頷いた。

リゼリア 「なるほど……  この店が異世界と繋がり続けられる理由が、  ようやく理解できました」

ユウト 「理由……?」

リゼリア 「はい」

彼女は店長を見て、真剣に言った。

リゼリア 「“何が起きても、通常営業をやめない者”がいるからです」

アリシア王女 「……王国に召し上げるのは、やめておこう」

老人 「うむ。  この者は……  こちらの世界に置いておくべき存在じゃ」

店長 「……?」

店長はツナマヨおにぎりを手に取り、レジを打つ。

ピッ。

店長 「……130円……」

ユウトは天井を見上げた。

「……名の王より怖いもの、  身近にいたわ……」

蛍光灯が、いつも通りに明滅する。

Midnight Mart 王都支店。

今日も――

世界は救われ、

売上は平常運転だった。

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