その後で一番怖かったのは、店長だった」
――沈黙。
ついさっきまで、
名の王だの覚醒だの世界の危機だのがあったとは思えないほど、
Midnight Mart 王都支店の店内は静まり返っていた。
床は無事。
棚も無事。
レジも――多分、無事。
ユウトは床にへたり込み、天井を見上げた。
ユウト
「……なあ……
これ、労災……下りますよね……?」
リゼリア
「まずは生存確認を優先なさい」
アリシア王女
「うむ。名の王と対峙した労働者としては、かなり健闘した」
老人
「深夜バイトとは、かくも苛烈なものなのか……」
そのとき。
――カラン。
入口の自動ドアが、いつも通りの音を立てて開いた。
全員が一斉にそちらを見る。
入ってきたのは、
異界の王でも、謎の覚醒者でもない。
無地のジャンパー。
名札には、ただ一言。
「店長」
店長は、店内をぐるりと見回し――
静かに、首をかしげた。
店長
「……ユウトくん」
ユウト
「は、はいっ!!」
条件反射で背筋が伸びる。
店長
「さっき、バックヤードの警報ログが
“青い発光・原因不明”って出てたんだけど」
ユウト
「そ、それはですね……」
リゼリア(小声)
「説明は簡潔に」
アリシア王女(小声)
「威厳をもって」
老人(小声)
「正直に言え」
ユウト
「……えっと……
名の王が来て、
名前取られそうになって、
覚醒しました」
数秒。
店長は、無言でユウトを見つめたあと――
ふう、とため息をついた。
店長
「……で?」
ユウト
「……はい?」
店長
「商品、壊れてない?」
ユウト
「えっ」
リゼリア
「……ございません」
アリシア王女
「陳列は保たれております」
老人
「魂は少々削れたがな」
店長
「床、焦げてない?」
ユウト
「……えっと……
ちょっと青く光りましたけど、
拭いたら消えました」
店長
「よし」
全員
「「「よし?」」」
店長は腕を組み、真顔で言った。
店長
「じゃあ今回の件は
“深夜帯によくあるトラブル”ってことで」
ユウト
「よくある!?」
店長
「ユウトくん」
ユウト
「は、はい……」
店長
「この店、
異世界客OK
魔法使用は最小限
戦闘は原則バックヤード
って、マニュアルに書いてあるよね?」
リゼリア
「……確認しました。書いてあります」
アリシア王女
「なぜそんな項目が……」
老人
「この世界、恐ろしいな」
店長はユウトに一枚の紙を渡した。
ユウト
「……始末書?」
店長
「うん」
ユウト
「理由欄……」
店長
「“名の王対応による一時的混乱”でいいから」
ユウト
「軽っ!!」
店長
「あと」
店長は、ユウトの胸の名札を見る。
ユート店員
店長
「名札、割れてるから」
ユウト
「……あ」
店長
「新しいの発注しとくね」
ユウト
「……ありがとうございます……」
店長は出口に向かいながら、ちらりと振り返った。
店長
「それとユウトくん」
ユウト
「は、はい!」
店長
「覚醒とか、世界の運命とかはいいけど」
一拍。
店長
「次、廃棄処理の時間だから」
ユウト
「……はい……」
自動ドアが閉まる。
――カラン。
沈黙。
アリシア王女
「……なに、今の……」
リゼリア
「……この店で最も恐ろしい存在です」
老人
「名の王より厄介じゃな」
ユウトはゆっくり立ち上がり、深く息を吐いた。
ユウト
「……今日も無事じゃなかったけど」
名札の残骸を見つめて、苦笑する。
ユウト
「とりあえず――
廃棄、やりますか……」
Midnight Mart 王都支店。
世界の危機のあとでも、
深夜バイトは終わらない。




