覚醒の翌日は、だいたい眠い
ユウトはレジ裏で、顔から魂が抜けたようになっていた。
「……無理……今日は無理……」
深夜の死闘。
名の王。
覚醒。
世界への名乗り。
――そのすべての翌朝。
人は、普通に眠い。
リゼリアが腕を組み、呆れたようにため息をつく。
「ユウト殿。開店三十分前からその姿勢のままですが」 「だってさ……昨日さ……名前かけて世界救ったんだよ……?」 「救った、とは言っておりません」 「細かい!!」
そこへ、裏口のドアが元気よく開いた。
「おはようございまーす!!」
金色のマントが翻り、アリシア王女が颯爽と入店する。
「本日は“平和な日常回”と聞いておりまする!」 「誰から!?」
王女の後ろから、例の老人がヨロヨロと入ってきた。
「わしじゃ」 「あなたか!!」
■ 名の覚醒、その後
ユウトはレジに突っ伏したまま、ぼやく。
「ねえ……覚醒したらさ…… もっとこう、強くなったり、オーラ出たりしないの?」 老人は首を振る。
「残念じゃが、名の覚醒は万能ではない」 「ですよね……」 「代わりに――」
老人がユウトの名札を指差す。
名札:
ユート(夜勤)
その文字が、微妙にキラキラしている。
「……光ってない?」 「光っておりますね」 「昨日より三割ほど」 「成長してる!?」
アリシア王女が目を輝かせる。
「つまり! ユウト殿は“名札が本体”ということですな!?」 「やめて!!」
■ ツナマヨ教、再燃
そこへ、常連の異世界客――
ツナマヨ教信徒(自称・司祭)が現れた。
「……覚醒、おめでとうございます」 「声ちっさ!!」
司祭は震える手でツナマヨおにぎりを掲げる。
「あなたが“名を守った”その姿…… 我らは見ました」 「どこで!?」 「ツナマヨは、すべてを見ています」 「怖い宗教やめて!!」
リゼリアが即座に遮る。
「本店内での宗教勧誘は禁止です」 「……では、ポイントカードだけでも」 「それはOKです」
■ 覚醒の弊害
ユウトがため息をついた、その瞬間。
ピコン。
レジの画面に謎の表示が出る。
【名の感応:微】
「……なにこれ」 老人が真顔になる。
「おぬし、覚醒してから“名に関わる存在”を引き寄せやすくなっておる」 「え、じゃあまた名の王みたいなの来る?」 「いや、もっと厄介じゃ」
裏口の向こうから、声がする。
「……名前、教えてください……」 「もうやだああああああ!!」
しかし、現れたのは――
配達員だった。
「Midnight Mart王都支店さんですか? 名前、サインお願いします」 「心臓に悪いから!!」
■ オチ
全員が一斉にため息をつく。
アリシア王女が笑った。
「ふふ。 世界の危機を越えても、 コンビニは今日も平常運転ですな」 リゼリアも微笑む。
「ええ。 だからこそ、ユウト殿は――」 老人が頷く。
「“名を持ったまま日常に戻れる”」 「それが一番、強い」
ユウトは名札を見つめ、苦笑した。
「……じゃあ今日も、夜勤頑張りますか」
その瞬間。
ピコン。
【名の感応:微・継続中】
ユウト 「……フラグ立てるのやめて?」
Midnight Mart 王都支店。
世界最前線の、平和な深夜営業は――
今日も続く。




