覚醒翌日の深夜シフト
青い光が完全に消え、
Midnight Mart 王都支店には、いつもの白い蛍光灯だけが残った。
レジ横の時計は――
AM 2:17
ユウトは床にへたり込み、天井を見上げていた。
「……あのさ」 「今のって、労災下りる?」
沈黙。
次の瞬間。
「下りません」
リゼリアの即答だった。
ユウト
「即答!?」
アリシア王女は剣を鞘に収め、しげしげとユウトを見下ろす。
「見事であったな、ユウト」 「まさか名の王を退けるとは」
ユウト
「いや、ほぼパニックだったんだけど……」
老人は深く息を吐き、杖を床に突いた。
「……とりあえず」 「店は壊れとらん。棚も無事。影の残滓も消えた」
リゼリア
「被害報告は……おにぎり一段落下、のみですね」
ユウト
「平和すぎない?」
そのとき。
自動ドアが「ウィーン」と音を立てて開いた。
「ピッ」
カエル型の常連客だった。
ユウト
「……あ」
「ツナマヨ、ある?」
全員
「「「ある」」」
――こうして、
世界の危機の直後に、普通の接客が始まった。
覚醒の副作用
レジ対応をしながら、ユウトは違和感を覚えていた。
(……なんか、わかる)
カエル客がどの棚を見るか。
次に何を取るか。
レジ前で小銭を落とすかどうか。
全部、ほんの一瞬だけ“先にわかる”。
ユウト
「……え?」
ツナマヨを取ろうとした客が――
本当に落とした。
ユウト
「マジかよ……」
リゼリアが小声で言う。
「……名の覚醒の余波ですね」 「“名を奪われない存在”は、世界との結びつきが強くなります」
ユウト
「つまり?」
リゼリア
「簡単に言えば―― この店でだけ、やたら勘が冴える」
ユウト
「なにそれ」 「便利だけどスケール小さくない?」
老人
「贅沢を言うな」 「名の王に目を付けられとる時点で、人生の難易度は跳ね上がっとる」
王女、通常業務に戻る
アリシア王女はエプロンをつけ直し、腕を組んだ。
「では」 「本日のバイト内容に戻ろう」
ユウト
「え、続行?」
「当然である」 「名の王が去ったからといって、ツナマヨの需要は消えぬ」
リゼリア
「……理屈は通っていますね」
ユウト
「通ってるかなぁ!?」
王女は誇らしげに言った。
「安心せよユウト」 「本日は魔法使用禁止である」
ユウト
「昨日それ言ってた気がする」
深夜3時。
客足が途切れた一瞬。
ユウトはふと、胸元の名札を見る。
――ユート店員。
(……あれ?)
一瞬だけ、
“ユウト”の文字が二重に見えた。
重なって、ずれて、
もう一つの読みが浮かび上がる。
――ユート
――ユウ・ト
胸の奥が、ひくりと疼く。
(……気のせい、だよな)
そのとき、
裏口のゲートの奥で、誰かが静かに呟いた。
「まだ“形”が定まっていないか……」
淡い金の瞳が、闇の中で光る。
「だが問題ない」 「夜勤は、これからが本番だ」
自動ドアの向こうで、
朝焼けがわずかに空を染め始めていた。
――Midnight Mart 王都支店。
今日も、異世界と現世の境目で、
深夜シフトは続く。




