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『名を呼ぶ者は、夜の向こうに立つ』

静寂が、遅れて戻ってきた。

コンビニの冷蔵ケースが低く唸り、

レジ横の時計が「カチ、カチ」と音を刻む。

いつもの――

Midnight Mart 王都支店の夜だ。

だが、全員が理解していた。

もう“元の夜”ではない、と。

謎の人物は裏口の前に立ったまま、

一歩も中へ入ってこない。

境界線を越えない存在。

「安心しろ。今は敵ではない」

淡い金の瞳が、名札を見る。

「だが――味方とも言い切れない」

ユウトは息を整えながら言った。

「……説明、してもらっていいですか

 “呼んだ者”って何ですか」

謎の人物は、ほんの少しだけ笑った。

「名を持つ者が、

 自分の名を拒まずに叫べた時

 その響きは、世界を越えて届く」

リゼリアが一歩前に出る。

「あなたは……

 “名の王”とは異なる系譜……?」

「そうだ。あれは“奪う側”

 私は――待つ側」

王女アリシアが剣を下げないまま言う。

「待つ?

 何をだ」

「覚醒する者を」

その言葉に、空気が張り詰めた。

謎の人物は、ユウトだけを見る。

「ユウト

 お前はまだ“完全な名”を思い出していない」

ユウト 「……は?

 僕の名前はユウトですけど」

「それは“今の名”だ」

名札が、微かに熱を帯びる。

「だが――

 お前の名は、本来

 二つの世界で同時に呼ばれる名だ」

老人が息を呑む。

「まさか……

 現界と影界、両方に“記録された名”……」

「その通り」

謎の人物はゆっくりと踵を返す。

「今夜はここまでだ

 名の王を退けたことで、

 世界はしばらく静かになる」

裏口の向こう、異世界の夜が揺らぐ。

「だが――

 次に来るのは“奪う者”ではない」

振り返り、最後に告げた。

「思い出させる者だ」

ゲートが閉じる。

完全な沈黙。

ユウトはその場に座り込んだ。

「……深夜バイトって

 命懸けでしたっけ……」

リゼリアが静かに言う。

「いいえ、ユウト殿

 あなたが危険なのではありません」

王女も頷く。

「あなたの“名”が

 世界にとって危険なのです」

その瞬間。

レジが「ピン」と音を立てた。

画面には、見覚えのない表示。

――【新規登録:スタッフ名】

入力欄に、点滅する文字。

【NAME:____】

ユウトは名札を見下ろした。

そして、嫌な予感を覚えながら呟く。

「……これ

 僕が“次に書く名前”で

 何か変わるやつだよね……?」

画面は、答えない。

ただ静かに、

次の物語の始まりを待っていた。

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