『呼んだ者の名』
店内に沈黙が落ちた。
蛍光灯の白い光がやけに現実的で、
さっきまで影と王が暴れていたとは思えないほど、
Midnight Mart 王都支店は“いつもの深夜”に戻っていた。
――いや、戻ってはいない。
裏口の前に立つ、
氷のような白髪の男が、すべてを壊していた。
「……お前を、呼んだ者?」
ユウトの喉が鳴る。
白髪の男はゆっくりと一歩、店内へ足を踏み入れた。
その瞬間、床に残っていた青い線が、まるで道を作るように彼の足元へ集まる。
リゼリアが一歩前に出る。 金色のマントが静かに揺れた。
「名を名乗りなさい。 この店は、名なき者の立ち入りを許しません」
男は薄く笑った。
「……なるほど。 もう“店”そのものが結界になっているか」
その視線が、ユウトの胸の名札に向く。
――ユート店員。
「安心しろ、王国の魔導士殿。 私は敵ではない。少なくとも――今はな」
老人が、震える声で言葉を絞り出した。
「……やはり……間違いない…… その白き髪、その金の瞳…… “名の系譜”を知る者……!」
男は軽く肩をすくめた。
「よく覚えているな、古老。 だが今は昔話をしに来たわけじゃない」
そして、ユウトをまっすぐに見据える。
「ユウト。 さきほどお前は、“名の覚醒”を起こした」
ユウト 「いや、正直よくわかってないんだけど……」
「当然だ。 本来なら、王や賢者が何年もかけて辿り着く境地だ」
リゼリアの表情が、はっきりと変わる。
「……あなたは、知っていたのですね。 ユウト殿が、覚醒することを」
「知っていた、というより――」
男は一瞬だけ、目を伏せた。
「そうなるように、繋げた」
空気が凍る。
アリシア王女が剣を抜いた。 刃が白い光を帯びる。
「それは聞き捨てならぬ。 答えよ。なぜ、ただの人間である彼を――」
「“ただの人間”?」
男は静かに笑った。
「彼は最初から、完全な人間ではない。 だが、異世界の住人でもない」
ユウト 「ちょ、ちょっと待って! 僕、戸籍もあるし! 普通に日本で生きてたし!」
「知っている。 だからこそ、境界に立てる」
男は指で裏口を示す。
「この店が、なぜ“ここ”と“王都”を繋いだと思う?」
老人が息を呑む。
「……まさか……」
「Midnight Mart 王都支店は―― “名を持つ者と、名を奪われる者の交差点”だ」
ユウトの背中を、冷たい汗が伝う。
「そしてユウト。 お前はその“錨”として選ばれた」
ユウト 「選ばれたって…… そんなの聞いてない!!」
男は、初めてはっきりと申し訳なさそうな顔をした。
「すまない。 だが――名の王が動き出した以上、 誰かが“呼ばれる”必要があった」
リゼリア 「……あなたは…… “呼名者”……?」
男は静かに頷く。
「そうだ。 私は、名を呼び、世界を繋ぐ者」
そして、ユウトにだけ聞こえる声で言った。
「ユウト。 次に来るのは、名の王ではない」
「え……?」
「“名を失った者たち”だ。 お前の名に惹かれてな」
その瞬間、
店の外の闇の向こうで、
無数の“気配”が、ざわりと蠢いた。
リゼリアが杖を構える。
「……来ます」
アリシア王女が笑った。
「ふふ…… どうやら、深夜バイトは忙しくなりそうだな」
ユウトは天井を仰ぎ、乾いた笑いを漏らした。
「……時給、上がらないかな……」
だがその胸の名札は、静かに、確かに光っていた。
――名を持つ者として。
物語は、
ここから“守る話”へと変わっていく。




