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『名を呼ぶ者と、夜のコンビニ』

静寂が、重く落ちた。

コンビニの蛍光灯が、じ……と微かに音を立てる。 倒れた商品も、焦げた影の跡も、すべてが現実に戻っていた。

ただひとつ――

裏口に立つ、その人物だけを除いて。

氷のような白髪の男は、ゆっくりと一歩踏み出した。

床に足を置いた瞬間、青い光が一瞬だけ波紋のように広がる。

ユウトは本能的に後ずさった。

「……ちょっと待って。  “呼んだ”って、どういう意味ですか……?」

男は穏やかに微笑む。

「そのままの意味だよ。  君が“ユウト”として、この場所に立つことを」

リゼリアが即座に杖を構えた。

「答えなさい。  あなたは“名の王”の同類か、それとも――」

「違う」

男は即答した。

「私は名を奪わない。  むしろ――守る側だ」

アリシア王女が一歩前に出る。

「ならば名乗れ。  名を持つ者ならば、それが礼儀というものだ」

男は一瞬、視線を伏せた。

そして、静かに口を開く。

「……私の名はまだ、ここでは明かせない」

ユウト 「いやいやそれ一番怪しいやつ……!」

だが男は笑った。

「そう警戒するな。  君が今、存在していること自体が、  私が“敵ではない”証明だ」

老人が震える声で呟く。

「……あれほどの“名の覚醒”の後に、  害意ある存在が近づけば……  この店ごと、消し飛んでおる」

男は老人を見る。

「お久しぶりですね。  まだ“観測者”を続けておられたとは」

老人の杖がわずかに揺れた。

「……知っておるのか、儂を」

「ええ。  あなたは“名を記録する者”だ」

空気が、凍った。

ユウト 「ちょ、ちょっと待って情報量多すぎません!?」

男は再びユウトに視線を戻す。

「ユウト。  君は今日、“名の王”に拒絶を突きつけた。  それは偶然ではない」

ユウト 「……え」

「君の名は、最初から“不完全”だった」

その言葉に、リゼリアが息を呑む。

「……まさか……」

男は頷く。

「“ユウト”という名は、  本来、もう一つの意味を持っている」

ユウトの胸の名札が、かすかに熱を帯びた。

「君が深夜にここで働き続けていた理由。  この店の裏口が、異界と繋がった理由。  そして――  君が名を奪われなかった理由」

男は一歩、近づく。

「すべては、  “名が完成する時”を待っていたからだ」

アリシア王女 「……完成、だと?」

「そう。  今日の覚醒は“始まり”に過ぎない」

男の視線が、裏口へと向く。

「これから君は、  名を奪おうとする存在だけでなく――  名を“与えようとする者たち”にも狙われる」

ユウト 「……え、なにそれもっと嫌なんだけど」

男は、初めて少しだけ真剣な顔になった。

「安心しろ。  私は、その前に君に選択肢を与えに来た」

「選択肢……?」

「そう」

男は静かに告げる。

「このまま“ただの深夜バイト”として生きるか」 「それとも――」

裏口のゲートが、淡く光り始める。

「“名を扱う者”として、  この世界と異世界の境界に立つか」

沈黙。

誰も、すぐには口を開けなかった。

やがてユウトが、乾いた笑いを漏らす。

「……ねえ。  選ばなかったら、どうなるんですか」

男は微笑んだまま答えた。

「選ばなくてもいい。  ただ――」

一瞬、視線が鋭くなる。

「名は、いずれ完成してしまう」

その言葉が、静かに胸に落ちた。

ユウトは名札を見つめ、深く息を吸う。

「……とりあえず」

顔を上げて言った。

「今日のシフト、まだ終わってないんで。  続きは閉店後でいいですか」

一瞬の沈黙のあと。

リゼリアが小さく笑い、 王女が声を上げて笑い、 老人が肩を震わせた。

男も、ふっと息を漏らす。

「……やはり、君は面白い」

Midnight Mart 王都支店。

深夜〇時〇分。

“名を巡る物語”は、

次の段階へと静かに踏み出した。

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