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影が求める名の音、二つ目が震える夜

ユウトの叫びが響いた瞬間、

コンビニの空間そのものが――“裏返った”。


棚の中の商品は空へ吸い上がるように浮かび上がり、

レジのパネルは歪み、

蛍光灯は青い光の粒となって舞い散った。


そのすべてが、ユウトの叫びを中心に

円を描くように旋回していた。


リゼリアが目を見開く。

「……名の波動……!?

 ユウト殿の名が……“抵抗”している……!」


アリシア王女も息を呑む。

「この強さ……ただの異界人ではない……」


老人は震える手で杖を支えながら、

その中心の青年を見つめた。


「……やはり、お主は……

 “名前そのものに宿った者”か……」


ユウト

「な、なにが起きてるの!?

 僕が……なんかした!?」


老人

「いや、お主は“思い出した”だけじゃ。

 お主の名が元から持っていた光をな」


影が、その光に焦ったように揺らぎ始める。


そして――その時だ。


店の外。

闇の彼方に存在していた巨大な青い瞳が、

ゆっくりと店の入り口へ近づき……


ガラス越しに、その“形”を現した。


それは影よりも大きく、

人でも魔物でもない“概念の塊”だった。


青白い光の輪郭だけが、ゆらゆらと揺れ、

空気を震わせて名を響かせる。


――――ユ。


ユウトの心臓が、強く跳ねた。


アリシア王女

「呼んでいる……!

 あれは……名を喰う影より高位の存在……!」


リゼリア

「名の王……!

 本当に……実在していたなんて……!」


老人は唇を噛み、静かに告げた。


「名のネームロード

 “名の始まり”を統べる古の存在……

 本来ならば神殿の最奥に封印されているはず……!」


ユウト

「なんでそんなやつが僕を狙うの!?

 僕は普通の人間だってば!!」


老人

「違う!!」


老人が杖を掲げ、店全体を振動させる声で叫ぶ。


「お主は“名を喰われる側”ではない!!

 名を“授けられた”側なのだ!!」


ユウト

「……授けられた……?

 僕の名前って……誰かに?」


老人

「そう――

 “名の王自身”にな!!」


青い巨大な瞳が、ゆっくりと瞬きした。


まるでその事実を肯定するかのように。


アリシア王女

「そんな……!

 ではユウト殿は、生まれた時から……

 名の王に選ばれていた存在……?」


リゼリア

「だから……影が名を追い始めた……!」


ユウト

「ちょ、ちょっと待って!?

 僕、生まれたときにそんなこと聞かされてないんだけど!!?」


老人

「当然だ。

 名の王が授ける“選名せんめい”は、

 持ち主が成人するまで決して目覚めぬ」


ユウト

「僕この前22になりましたけど!?

 遅れて発動する仕様あるの!?」


老人

「働く時間帯が“深夜”だからじゃ」


ユウト

「えぇぇぇぇぇ……!?」


影が不気味に震えた。

主影は、

名の王の目の前で“ユト”の続きを描きたがっている。


まるで、

名の王の授けた名前を“奪い返す”ために動いている

かのように。


アリシア王女

「影が……名の王に反逆している……?

 これでは……」


リゼリア

「ユウト殿の名が“奪われる”だけでなく……

 王が授けた名が否定されることになる……!」


老人

「それはこの世界の秩序が崩壊するのと同じ……!」


ユウト

「なんでそんな重要な立場に僕なんだよ!!

 ただの深夜バイトだぞ!?」


老人

「だからこそだ。

 “普通の名”にしか見えぬように偽装されていた」


ユウト

「偽装!?

 名前に偽装システム入ってたの!?」


アリシア王女

「今は驚いている暇はありません!!

 あれが三文字目を刻んだら、ユウト殿は――」


リゼリア

「別の存在に書き換えられる!!」


影が“ユト”の続きの線を描こうと手を伸ばした瞬間。


名の王――青い巨大な瞳が淡く光った。


……やめよ。

 それは、我が与えた名……


影がビクリと震えた。


老人

「名の王が直接……!?

 これは伝承級の現象だぞ!!」


アリシア王女

「ユウト殿……!

 あなたは完全に“中心”に立たされています……!」


ユウト

「やめて!!

 僕はその中心にいたくない!!

 ただの22歳夜勤バイトなんですけど!!?」


影が、名の王の威圧に逆らうようにさらに滲む。


そして――


名の王が“ユウトの名前”を呼んだ。


――ユウ……


半分の音だけ。


それを聞いた瞬間、

ユウトの胸が青く光り、

体の中心から“何か”が目覚める感覚がした。


ユウト

「っ……な……に、これ……

 胸が……熱い……!」


老人

「ユウト! 抵抗するな!!

 それは“授名者”の力だ!!

 お主は今、名を失うのでなく――

 名の力を思い出しつつある!!」


青い光がユウトの体から溢れ、

影が後ずさるように揺れた。


リゼリア

「影が……怯えている……!?」


アリシア

「ユウト殿の名の光……

 影を焼いている……!」


ユウトの喉から、無意識の声が漏れる。


「……ユ……」


影が震えた。


ユウト

「僕の声が……勝手に……!?」


老人

「名の王に選ばれた者は、

 “名を名で撃つネーム・コール”を扱える!!

 それは影にとって天敵!!」


主影が暴れるように千切れ、

名の王が低く世界に響く声で告げた。


――名を思い出せ。

 ユウ……ト……


ユウトの胸が大きく脈打った。


影が悲鳴にも似た揺らぎをあげる。


ユウトの声が震えながらも響く。


「……ユウト……!!

 僕の名前は――ユウトだ!!!」


光が爆ぜた。


影が弾き飛ばされ、青い筆跡が霧散する。


その刹那――

“ユト”まで書かれた刻印が、まばゆい光で焼かれ、

跡形もなく消えた。


影の囁きが消える。


名の王の瞳が、静かに閉じた。


リゼリア

「……消えた……!

 影を……押し返した……!」


アリシア王女

「あなたの名が……勝ったのです……ユウト殿……!」


ユウトは膝から崩れ落ちた。

だが胸の奥には――確かに何かが残っている。


それは“名の力”。

眠り続けていた、本来の自分。


老人は静かに告げた。


「ユウト。

 ここからが本番だ。

 名の王が授けた名には――

 まだ続きがある」


ユウト

「……続き?」


老人

「お主の“本当の名”は……

 まだ誰も知らぬ。

 お主自身ですら、な」


名の王の瞳が開く。

新たな青い光がユウトに向けられる。


――ユウト。

 そなたの“真名”を……思い出す時が来た。

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