表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/57

――影が求める名の音、二つ目が震える夜

棚の片隅に刻まれた青白い文字。


――ユ。


その“たった一文字”が、店内の空気をまるで別世界に変えていた。

ユウトは息をのむ。


(……なんで僕の名前を……

 しかも最初の一文字から……?)


リゼリアは、光る刻印を険しい顔で見つめていた。


「影が名を学び始めた……。

 まずい、思ったより早いペースです」


アリシア王女が低く言う。


「本来、名を奪う影はもっと“鈍い”はずだ。

 だがこやつ……昨日の揺らぎよりもはるかに強い」


「どうするの……?

 僕の名前、全部覚えられたら……」


ユウトが震える声で言うと、王女は答えた。


「影は“名を呼ぶ”ことができるようになる。

 名を呼ばれれば、お前の魂と居場所を握られる。

 影界から、強制的に引きずり込まれてしまう」


「最悪だぁぁぁ……!!」


リゼリアがユウトの肩に手を置く。


「安心せよ、ユウト殿。

 影が名を“完全に理解する前”に封じればよい。

 まだ半ばにも達しておらぬ」


そう言った直後だった。


――ピシッ。


棚の間の空気が、また裂れた。


青い光が細く走り、

なにか“細長い影の指”のようなものが店内を探る。


リゼリアが即座に魔術で封じようとする。


「《封光ライト・シール》!」


光が瞬き、影を押し返す。

だが――影は引き下がるどころか、光に“触れよう”としてきた。


まるで特定のものを探し当てようとするように。


ユウトの背筋に悪寒が走る。


(……僕の名前の続きを探してる……

 そんな動きにしか見えない……!)


影が棚の影から床へ、床から壁へと滑り、

やがて――ユウトの足元へ近づいた、その瞬間。


「下がれ!!」


アリシア王女が踏み込むと同時に、

影の前へ剣を構えた。

剣の刃が淡い蒼光を帯び、影が一瞬ひるむ。


だがその一方で――


リゼリアの表情が険しくなっていく。


「……いけません。

 影の探り方が、まるで“名の形”をなぞっている……」


影が店内にいくつもの“点”を描くように揺れた。

それらは、ユウトの名前の二文字目を探すように――

ある形を成し始めていた。


「やめろっ……やめてくれ……!」


ユウトが叫んだ瞬間。


影の光が、ぽうっと強くなり――


――“ユ”の下に、もう一画が刻まれた。


アリシア王女

「……っ!!」


リゼリア

「止めきれなかった……!」


ユウトが恐る恐る刻印を見た。


そこに描かれたのは――

“ユト”と読めそうな、一画目。


まだ完成ではない。

だが、確実に名前に近づいている。


「あと一歩で……

 影は僕の二文字目を覚えるってこと……?」


「はい……

 次に揺らぎが強まり、影が戻ってきたら――

 二文字目が完成する可能性が高いです」


リゼリアの声が震えていた。


アリシア王女も真剣に言う。


「ユウト。

 影に名を奪われれば、お前は“名前を呼ばれて消える”。

 この世界からも、お前の世界からも」


「消える……?

 コンビニの休憩室で働いてただけなのに……?」


ユウトの手が震えた。


だが――

その時。

店の外から、誰かが駆け寄る足音が聞こえた。


「っ……誰か来る!」


ガラス越しに、青い外灯の下に人影が現れる。


ローブ姿。

背は低いが、杖を抱えた老人のような……

しかし一般の人間とは明らかに違う雰囲気。


リゼリアが驚いて叫ぶ。


「……まさか……“宮廷魔術師長”……!?」


老人は店に近づき、静かに言った。


「――名を喰う影が、こちらに現れたと聞いての。

 遅くなってすまぬ、異界の勇士よ」


ユウトは目を丸くした。


(勇士……!?

 僕、ただの夜勤バイトなんだが……!?)


老人は深くフードを下ろし、

リゼリアと王女を見渡してから、ユウトへと視線を向ける。


その目は、まるで何かを「確かめる」ようだった。


「うむ……やはり“お主”か。

 名の光を多く持つ者……

 影が求める“鍵”を持つ者よ」


「か、鍵って……なんなんですか!?」


老人は静かに告げた。


「ユウト。

 お主の名は――“普通の名”ではない。

 この世界にとって特別な響きを持つ。

 ゆえに影が惹かれるのだ」


ユウト

「はぁぁぁ!?

 なんで僕の名前が異世界仕様なんですか!?

 日本の普通の名前ですよ!!?」


老人は微笑む。


「普通、か。

 では聞くが――

 お主は本当に“偶然”この門を開いたと思っておるのか?」


ユウト

「…………え」


静寂。


王女も、リゼリアも、

そして影に刻まれた“ユ”の文字も、

すべてが意味を帯びて見え始める。


老人はさらに言葉を続ける。


「ユウトよ。

 お主は――“呼ばれた側”なのだよ。

 この店に立つべくして、ここにいる」


リゼリアが息を呑む。


アリシア王女も青ざめる。


ユウトだけが、意味がわからず震える。


「呼ばれた……?

 誰に……?」


老人は答えた。


「“名を喰う影”ではない。

 もっと古く、もっと強い存在にだ」


その直後。


コンビニの照明がすべて落ちた。


――パチン。


暗闇の中、床一面に“青い線”が浮かび上がる。


影が戻ってきた。


そして今度は――

棚に、よりはっきりした文字を描き始めた。


“ユト……”


名の二文字目が完成しようとしている。


ユウトは声にならない悲鳴を漏らした。


老人が杖を掲げ、叫ぶ。


「急げ!!

 影に名を奪われる前に――

 “名の守り”を施さねばならぬ!!」


リゼリア

「ユウト殿!! こちらへ!!」


王女

「影が完全に“名の形”を掴む前に止める!!」


店中に青い光が走る。

影は名前の続きを描き始める。


――これは、ユウトの運命を決める夜だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ