祭りの余韻と、気づかれぬまま始まる“静かな異変”
祭りが終わった夜、Midnight Mart はいつもより静かだった。
外から聞こえていた楽器や歓声も途絶え、街路の灯りだけがぽつりと揺れている。
ユウトはレジ前で椅子に腰かけ、疲れた身体を伸ばした。
「……祭りの夜にしては、変な静けさだな」
店内では、リゼリアが棚の整理をし、
アリシア王女はまだエプロン姿のまま余韻に浸っている。
王女はキラキラした瞳で言う。
「本日も良き営業であったな! この王女、明日こそは“おにぎりの握り時間短縮”を習得してみせる!」
「……王女様、それはぜひお願いしますね……」
ユウトは苦笑しながらも、どこかほっとしていた。
だが、その安心感は長く続かなかった。
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◆ 1. リゼリアだけが気づいた異常な“ゆらぎ”
棚を整えていたリゼリアが、ふと立ち止まった。
「……ユウト」
「ん? どうかしました?」
「魔力の流れが、さきほどから不規則なのです。
まるで誰かが意図的に……異世界とこの店を繋ぐ“門”を揺らしているような……」
ユウトはピンと来ない。
「そんなこと、できる人いるんですか?」
リゼリアは静かに首を振る。
「通常はできません。
しかし――“精霊級”の存在か、“国家魔導師級”であれば、可能ではあります」
アリシア王女が振り向く。
「それはつまり……誰かが店を狙っている、ということか?」
「今の段階では断言できません。ただ……少し気になりますね」
王女はマントを翻し、きりっと表情を引き締めた。
「であれば、明日から本格的に店を守る態勢を取らねばならぬな!」
「王女様、バイトでそこまで……いや、まあ、助かるけど……」
ユウトは頭を抱えた。
だが本当は、リゼリアの顔から読み取れた。
彼女がこんなに表情を曇らせるのは、本当に“ただ事ではない”時だけだ。
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◆ 2. 小さな異変:深夜の自動ドアが勝手に開く
その時だった。
――ピンポーン……
誰もいないのに、自動ドアが開いた。
ユウト「……ん? 誰か来ました?」
リゼリア「いいえ。人影はありません」
アリシア王女「むむっ……姿を消しておるのか?」
三人は一斉に入口を見る。
だが、冷たい夜風が店内に流れ込むだけだった。
ユウトが眉をひそめる。
「これ、昔のホラー映画でも見たことありますよ……」
リゼリアは結界を張りながら、低い声でつぶやく。
「魔力反応……わずかにあります。
“未知の存在”が店の周囲をうろついているようですね」
アリシア王女はわずかに身を乗り出す。
「であれば、私が迎撃を――」
「王女様! 落ち着いてください! まずは様子を……!」
ユウトは慌てて制止したが、
王女の青い瞳も、リゼリアの紫の瞳も、同じ方向を見ていた。
――店の外、ほんの数メートル先の闇。
影がゆらりと揺れた。
風ではない。
街灯の揺れでもない。
“意思”を持った影の動き。
ぞくり、と背筋に寒気が走る。
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◆ 3. そいつはまだ姿を見せない
リゼリアはユウトのそばに並び、小声で言った。
「ユウト。
店と異世界の“境界”に、何者かが干渉しています。
すぐに襲ってくる気配はありませんが……これは始まりです」
アリシア殿下も静かに呟いた。
「祭りは……終わったのだな。
ここからが、本当の“物語”の始まりかもしれぬ」
ユウトは唾を飲み込みながら、震える声を出す。
「やっぱり……深夜バイト、普通じゃないですよね……?」
二人は同時に微笑んだ。
「普通ではございませんとも」
「元より、ここは世界の“狭間”ですもの」
その夜。
“影”は姿を見せずに消えた。
けれど、三人とも気づいていた。
――Midnight Mart は、何かに“見つかった”。
そして、もう後戻りはできない。




