Midnight Mart 王都支店 ――“静かな朝”は訪れない
翌日。
ユウトは開店前の静かな店内で、ひとり深呼吸していた。
「……昨日の王女様で、だいぶ精神力もってかれたな……
今日は、頼むから普通の日であってくれ……」
その祈りは、入店ベルの音によって秒で破られる。
チリン――。
「ユウト殿、参上!!」
金色のマントが再び舞い、店内の空気が一瞬で“非日常”に染まった。
「おはようございまする! 今日もツナマヨ握りの修行を!!」
ユウト「え、もう来た!? いや今日はシフト入ってないって聞いたんですが!」
アリシアは胸を張る。
「昨夜、王城を出る前に父上に頼んで、正式に"研修期間"として許可をもらいました!」
ユウト「……王族の許可って、そんな軽いものなんですか!」
リゼリアがバックヤードから姿を現す。
青銀の髪がふわりと揺れ、いつもの落ち着いた声が響いた。
「王女陛下、ユウトが混乱しております。
それと、本日の修行内容はおにぎりではございません」
アリシア「えっ!? では何を…?」
リゼリアはレジカウンターの横をすっと指さした。
「――レジ業務です」
アリシア「レ、レジ……?
あのボタンがたくさんある魔導盤のような機械でございますか?」
ユウト「そうです……って魔導盤って言わないでください……」
アリシアはレジの前で腕を組み、真剣な眼差し。
しかし、真剣すぎる。
「ならば我が王国の威信をかけ、完璧に習得してみせましょう!」
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◆ 地獄のレジ研修、開幕
最初のお客は、半透明のスライム紳士。
帽子をかぶり、礼儀正しい。
「ピチュ……(ミネラルウォーターを)」
アリシア「承った! 価格は……ふむ、これですな!」
ピッ、とバーコードを通そうとした瞬間。
レジ「ピーーーーー!」
ユウト「それ違います! おにぎりのコードです! スライムさん、水しか買ってませんから!」
スライム客「ピチュ!?」
(※おにぎりを買ったことにされて驚いている)
アリシアは真っ赤になりながら謝る。
「す、すまぬ! これが現世の魔導機器の難しさ……!」
リゼリアがそっとユウトの横に寄って囁く。
「ユウト、王女陛下は“間違いを恥じる”という人間性をお持ちです。
これは良い傾向ですよ」
ユウト「いや慰めになってないですよ……!」
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◆ 次の客:ドラゴン
ガタンッ!!
店の入り口がゆっさゆっさ揺れ、巨大な影が差した。
「すまん、今日も尾がひっかかった……」
ドラゴン型の常連客だ。
その瞬間、アリシアは凛とした声で言った。
「出迎えは私にお任せを!」
彼女はマントを翻し、
ドラゴンの尾の下に魔法陣を展開する。
「――《軽量化魔法フェザーリング》!」
ドラゴンの尾がふわりと浮き、棚にぶつからなくなった。
ユウト「え、すごい……めっちゃ便利……!」
ドラゴン客「おお、王女殿…。今日の店はいつもより入りやすいぞ!」
リゼリアがユウトに微笑む。
「……王女陛下は、ポテンシャルだけなら歴代最高の新人かもしれません。」
ユウト「いや、扱いづらさも歴代最強ですよ……」
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◆ けれど、王女には“目的”がある?
営業も終盤。
アリシアはレジ打ちにも少し慣れ、魔法の補助も控えめになった。
ユウトはふと、アリシアの横顔がいつもより少し真剣なのに気づく。
「王女様、今日……なんだか気合い入ってません?」
アリシアははっとして、微笑む。
「……実はな。
この店に、"探したい人物"が来るかもしれぬのだ」
ユウト「探したい、人物……?」
アリシアはそれ以上言わず、レジに戻った。
リゼリアが小さくため息をつく。
「ユウト……物語は、また少しだけ動き始めましたよ」
ユウト「いや、もうすでに十分動きすぎてます!」
そんなやり取りの中、
Midnight Mart 王都支店の夜は、またひっそりと更けていった。




