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影喰い、形を成す

「――来るぞ!!」


リゼリアが叫んだ瞬間、

影喰いの“形”がぐにゃりと歪んだ。


暗いバックヤードの奥。

蛍光灯のまばらな光を吸い込みながら、

青い輪郭線がひとつ……またひとつと増える。


まるで、複数の“手”が空中で探り合っているようだった。


ユウトは声が出ない。

喉がひっかかって息だけが荒くなる。


(無理……これは絶対に無理……

 ゲームでもこんな初見殺しやめてほしいタイプのやつ……!)


影喰いが、ずるりと“前へ”滲んだ。


――コンッ。


床がまた波打つ。


リゼリアが杖を高く掲げ、

低い声で詠唱を紡ぎ始めた。


蒼律そうりつの環よ――

 我が足元に集い、影を切り裂く道を形作れ……!」


足元に広がる魔紋が輝きを増し、

波紋のように店内へ光が走る。


ユウト

「わっ!? なになに!? 床が光ってるんだけど!!」


リゼリア

「踏み出すな、ユウト殿!

 魔紋に触れれば、そなたの命が先に削れる!」


「えっ!? ちょ待っ――俺どこ立てばいいの!?

 ここ!? この隙間!? えっ狭っ!!」


死ぬほどギリギリのスペースだった。


そんなユウトの混乱をよそに、

リゼリアは杖を前に突き出す。


「――蒼撃そうげきッ!!」


青い光が弾け、

矢のように鋭い魔力が影喰いへ走る。


直撃。


……したかに見えたその瞬間。


影喰いの輪郭が――“沈んだ”。


まるで、水の奥へ逃げるように。


リゼリア

「……避けた、だと?」


ユウト

「え!? 避けるの!? 避けるタイプなのあれ!?」


影喰いはその場にへたり込むように形を崩した後、

再びノロノロと輪郭を持ちあげる。


青い線が、おぞましいほど“ユウト側”に傾いた。


ユウト

「やめろってぇぇぇ!!

 なんで俺にくるの!? なんかした!?

 え、怖がってるから!? そんな理由ある!?」


リゼリアは分析するように影を睨みつける。


「……揺らぎの影。

 本来は“門の奥”にしか現れぬはずだ。

 だがこの影……“誰か”を探している動きだ」


ユウト

「え、誰か!? ほんとに!?

 俺じゃないよね!? 俺何もしてないぞ!?」


「落ち着けユウト殿。

 そなたではない。“揺らぎに近い気配”だ」


「いや俺の近くにいるのはリゼリアさんだけなんだけど!?」


リゼリアの表情が、一瞬だけ固まる。


影喰いが、ゆっくりと――

リゼリアへ顔を向けた。


まるで“見つけた”と言わんばかりに。


ありえないほど静かな音で、影の輪郭が鳴る。


――コ……リ……


ユウト

「え、リゼリアさん……?

 今の……なんか、“呼んでる”みたいな……?」


リゼリア

「……やはり、そうか。

 これは……“私を知る者”の影だ」


ユウト

「!?!?!?」


影喰いが突然、跳んだ。


輪郭が伸び、まるで縄のようにリゼリアへ向けてしなる。


ユウト

「危ない!!」


その瞬間――咄嗟にユウトの手が動いた。


思考より先に、

反射で、近くにあった“あるもの”を掴んで投げた。


それは――


ペットボトルの水。

 (ほぼ満タン)


ぴゅん!


「えっ!?」


リゼリアの声が驚くより早く、

ペットボトルは影喰いの輪郭へ直撃した。


次の瞬間。


――ジュウゥゥウッ……


まるで熱湯に氷を落としたように、

影喰いが激しく“蒸発”した。


青い輪郭が一気に崩れ、

後退しながら壁に溶け込むように消える。


ユウト

「……っ、え!? 効いたの!?

 俺、今なんかした!?」


リゼリア

「……ユウト殿……

 まさか、“水”が弱点……?」


ユウト

「え、知らんけど!?

 ただの天然水だけど!?」


リゼリアが影の残滓を見つめ、眉を寄せる。


「いや……違う。

 これはただの水の作用ではない。

 そなたの“思念”が形に乗った……?」


ユウト

「?????」


リゼリアが、ゆっくりとこちらへ顔を向けた。


そこには、

これまで見たことのないほど真剣な色。


「ユウト殿。

 そなた……“門の影響を受け始めておる”。」


ユウト

「えっいやいや!?

 俺なに!? そんな設定あった!?

 ちょ……やめて!? なんか怖い!!」


リゼリア

「落ち着け。

 害は……まだない。

 だがこれは、“そなたも門に選ばれつつある”兆候だ」


影喰いの残滓は完全に消え、

コンビニには、ただ静けさだけが戻った。


リゼリアは深く息をつき、

崩れ落ちそうなユウトの肩をそっと支える。


「……ユウト殿。

 明日、“器”を探すという約束は変わらぬ。

 だが……もうひとつ、確かめねばならぬことがある。」


ユウト

「……な、なに……?」


「そなたが“どこまで門に近づいてしまったのか”。

 それを、私は見極めねばならぬ。」


ユウト

「……えぇぇ……

 なんか……主人公補正の方向性が怖い……」


リゼリアは苦笑しながらも、

どこか決意を秘めた瞳で続ける。


「大丈夫だ。

 そなたを危険に放るつもりはない。

 ――必ず守る。

 そのために私は、ここに来たのだから。」


ユウトの心臓が、静かに高鳴った。


青い輪郭は消えたはずなのに、

店の奥にはまだ……わずかに“揺らぎ”が残っている。


こうして夜は、

さらに不穏な謎を残したまま深まっていった。


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