魔法商会の影――“裏口”をめぐる探り合い
入り口のベルが止まると同時に、空気は張り詰めた。
リゼリアはユウトの前に立ちながら、冷ややかに告げた。
「ガルド殿。夜分に来訪とは、いかなる用向きか」
「おや……。そんなに身構えないでいただきたい。
ただの“確認”ですよ。――この店が、いつまで“安全”でいられるか、という」
ユウト
「なんか怖い言い方したぞ今!?」
ガルドは笑みを崩さない。
敵意も圧もない。
なのに、声の奥には冷たい金属の刃が隠れている。
「本日、そちらのバックヤードで……“揺らぎ”があったでしょう?」
ユウトとリゼリアは思わず顔を見合わせた。
――見ていた?
――感じ取っていた?
リゼリアが低く返す。
「……それを知ってどうする」
「知っておくのは商会として当然のことです。
新規勢力――まして他界からの商人となれば、なおのこと」
やんわりとした声で、内容だけ妙に物騒だ。
ガルドは続ける。
「裏口が“門”である以上、揺らぎは放置できません。
まして、今日は“床からの逆流”まで起きている」
ユウト
「なんでそれまで知ってんだよ!!」
「ふふ。観察は商人の基本ですので」
笑いながら、全然ごまかせてない。
リゼリアは半歩前に出る。
「ガルド殿。言いたいことを申せ。
まどろっこしい物言いは好まぬ」
その瞬間だけ、ガルドの目が細く光った。
「……では端的に。
“裏口の管理権”――商会へ譲っていただけませんか?」
ユウト
「は!? なんでそうなる!?」
ガルド
「この店が扱う品は確かに魅力的。
しかし、門を安定させる技術はこちら側にはありません。
揺らぎは災いを招きます。
放置すれば……あなた方だけの問題では済まなくなる」
静かに、だが重く置かれた言葉。
リゼリアは鋭く睨む。
「……脅しか?」
「いいえ。助言です」
「そして――“機会”でもありますよ」
「機会?」
「ええ。
王都には、あなた方の商品を欲する者が日々増えている。
ですが同時に、危険も増えている。
もし門が暴走すれば――
“この世界側からの侵入者”が現れる可能性すらある」
ユウト
「だからって、管理権を渡すのは違くない!?」
ガルド
「安全のためですよ。
……もちろん、商会にも利益はありますが」
(あるんかい!!)
ユウトの心のツッコミが虚しく響く。
しかし――
ガルドが言った “この世界側からの侵入者” という言葉が妙に引っかかった。
さっき床下で聞こえた“コン……カリ……”
あの正体不明の音。
そして青い光。
まさか――
裏口だけでなく、別のルートから“何か”が侵入しようとしてる?
ガルドがふいにユウトへ視線を向ける。
「あなたも見たでしょう?
“青い光”を」
ユウト
「っ……!」
「放置は危険です。
だから私は――あなた方と“共に動きたい”のです」
穏やかすぎる声。
その裏に腹黒さを隠しながら。
リゼリアは一歩踏み込み、目を細めた。
「……共に、とは便利な言葉よ。
結局は“門の支配権”が目当てであろう?」
ガルド
「さて……どうでしょうね」
不気味な笑み。
――この男、ただの商人じゃない。
ユウトの背筋が、ぞわりと冷たくなった。
その時だった。
バックヤードから……
――カタン。
昼間より重い音がした。
ユウト
「……今の、聞いた?」
リゼリア
「うむ。あからさまに、我らを見ておる」
ガルドはひとつ息を吐き、静かに口元を歪めた。
「……どうやら時間切れのようだ」
「また伺いますよ、バイト殿。
裏口の“扱い”は、早めに決めなければなりませんから」
そしてガルドは店を去った。
扉が閉まった瞬間、リゼリアは肩の力を抜きつつも、低くつぶやいた。
「……やはり、“動いておる”な」
ユウト
「やっぱ絶対なんかいるよね!? 床の下に!!」
「うむ。だが――まだ動かぬ方がよい。
敵が姿を現すまでは、こちらも“揺らぎの気配”を追うだけだ」
(こいつら……両方怖いんだけど……)
異世界と現世の“境界”は、確実に歪み始めている。
そしてユウトはまだ知らない。
この夜の“揺らぎ”が、明日――大混乱へ繋がることを。




