ガルドの真意――魔法商会が狙うもの
ガルドは、夕暮れの店内を興味深そうに見渡していた。
ユウトは荷物を抱えたまま、なんとなく背筋を伸ばす。
「裏口について……とは、どういう意味ですか」
そう聞いたユウトの横で、リゼリアが一歩前へ出た。
マントがふわりと揺れ、空気が一瞬だけ張りつめる。
「ガルドよ。
貴殿がこの店の“内側”に踏み込む理由は何だ?」
「おや、警戒されてしまいましたかな。
ただ気になっているだけですよ」
ガルドは笑うが、その目は一切笑っていなかった。
「――昼間、見ましたのでね。
バックヤードから漏れた“青い光”を」
ユウトの心臓が跳ねる。
(やっぱ見られてたんだ……!)
リゼリアは表情ひとつ変えず、静かに答えた。
「見たところで、貴殿の関与が許されるわけではない」
「ええ、もちろん。
我々魔法商会は“王都の秩序”に従いますとも」
そのセリフの“裏”を、ユウトでさえ感じ取れた。
従うとは言っていない。ただ“言うだけ”だ。
ガルドは続ける。
「ですがね――
あの光は、“門の不安定化”の兆候でもある。
放置すれば、思わぬ事故が起こります」
「ふむ。
さも“我らのため”と言いたげだな」
「危険は避けたいでしょう?
何せここは裏口の向こうから“人も魔獣も入り得る”場所なのですから」
ユウト
「ま、魔獣!? 入ってくるの!?」
ガルド
「可能性の話ですとも。
もちろん、まだ“兆し”の段階でしょうがね」
“まだ”。
その一言に、ぞくりとしたものを感じた。
リゼリアの声が低くなる。
「……貴殿。
あの青い光を“兆し”と断言できるほど、何を知っている?」
ガルドは肩をすくめた。
「観察ですよ。
異界の扉が開いたという歴史書は、我々の商会が多数保管しておりますので。
あの光は――“外側から触れている者がいる”時に現れるのです」
ユウト
「外側……?」
リゼリア
「つまり――裏口の“向こうのさらに外”ということか」
ガルドは薄く笑った。
「扉を開けるのは、何も王国だけとは限らないということですよ」
まるで何かを示唆するように、ガルドは店を出ようとした。
だが、ドアノブに手をかけた瞬間――
「おっと、そういえば」
振り返るその顔は、完全に“商売人”のそれだった。
「店の外で奇妙な連中を見かけましてね。
貴殿らの店の名を熱心に口にしておりましたよ」
「奇妙な連中?」
「“ツナマヨの奇跡を求める者たち”だとか……
なんでしたかな?
――『ツナマヨ教・布教騎士団』?」
ユウト
「また増えてるぅぅぅ!!」
ガルドは愉快そうに笑い、店を後にした。
残されたユウトは、ぐったりと棚にもたれる。
「なんであいつら、増殖してんの……?」
「人気の証であろう。
誇るがよい」
「誇れないよ!!」
だがリゼリアはすぐ真剣な顔に戻った。
「ユウト殿。
ガルドの言葉、すべてが真実とは限らぬ。
だが――“外側から触れている者がいる”という点は無視できぬ」
ユウト
「……本当に、誰かが裏口を開けようとしてるの?」
「断定はできぬ。
だが、兆しは急に現れるものではない。
以前から何者かが動いていたと考える方が自然だ」
そして小さく続ける。
「そなたの知らぬところで、な」
ユウトは言葉を失った。
この店は自分の日常であり、ただのバイト先でしかない。
なのに――
裏では、こんなにもいろんな思惑が渦巻いている。
リゼリアはユウトの肩に軽く触れた。
「案ずるな。
王都とそなたの世界――
どちらも、私が守る」
その声は揺るがず、静かで力強かった。
だがユウトは知らない。
二人が話すバックヤードの床の下で――
“青い光”が、さきほどよりも濃く、長く灯ったことを。
まるで何かが、徐々に姿を形作り始めているかのように。




