表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/54

境界の揺らぎ――バックヤードに潜む影

昼のピークを越えた店内には、ようやく静けさが戻っていた。

客のざわめきも、怒涛のツナマヨ争奪戦も嘘のようだ。


ユウトは片付けをしながら、先ほどの光景を思い返していた。


――バックヤードの床が“青く”光った。


明らかに異常だった。

だが原因はまったく分からない。


「……気のせい、じゃないよな。あれ」


横で品出しをしていたリゼリアが、ゆっくりこちらを向く。


「気のせいではない。

 むしろ――“始まり”と考えるべきだ」


「始まり?」


「うむ。異界とこの世界をつなぐ“門”は、常に安定しておるわけではない。

 そなたの世界の技術で繋いでおる以上、綻びが出ぬはずがないのだ」


ユウトは思わずごくりと唾を飲む。


「……俺が、適当に掃除したからとかじゃないよね?」


「安心せよ。それは関係ない。

 たぶん」


「“たぶん”って言った!? 今“たぶん”って言ったよね!?」


リゼリアは少しだけ視線を落とし、慎重に言葉を選ぶように続けた。


「門は本来、“一方通行”であるべきだ。

 だが……誰かが干渉すれば、話は別だ」


「干渉……って、誰が?」


「それを探るのが、これからの我らの務めとなろう」


“我ら”と自然に口にしたリゼリアの横顔は、やけに頼もしかった。



---


■ バックヤード調査


閉店準備に入る前、ユウトとリゼリアはバックヤードを調べることにした。


段ボールをどかし、在庫棚の隙間を照らし、床を確認する。


だが――


「……何にもないな。光った痕跡すら残ってない」


「うむ。まるで“見られたくなかった”かのように消えておる」


リゼリアは床に触れ、眉を寄せた。


「……冷たい。いや、冷たいというより……“空気が通っておる”?」


ユウト

「空気が通るって、この床の下になんかあるってこと?」


リゼリア

「ここは異界への通路だ。

 床下に空洞があるのは自然ではない」


「自然じゃないなら……もしかして裏口とは別の“穴”が?」


「可能性は否定できぬ」


聞きたくなかった言葉が、あっさり返ってきた。


ユウトは天井を見上げて呻く。


「初日からこんなホラー展開やめてくれよ……」


「心配するな。

 その時は私がそなたを守る」


そう言って微笑むリゼリアは、とんでもなく心強い。

だが同時に、ユウトはなぜか少しだけ胸が騒いだ。


(……この人に言われると、なんか本当に守られそうなんだよな)


その時だった。


――コン……コン……


床の下から、“かすかな音”がした。


ユウト

「え? 今の……」


リゼリア

「聞こえたか。

 ……これは、風の音ではないな」


二人は同時に息を呑んだ。


――コン……コン……カリ……


床を叩くような。

引っかくような。


そんな音が、たしかに聞こえる。


ユウト

「な、なんかいるよね? 絶対なんかいるよね!?」


リゼリアは即座に構えを取った。

指先に青い魔力が灯る。


「そなた、下がれ。

 万が一、門が“逆流”しているなら――」


音が、ぴたりと止まった。


そして、床の隙間から

細い青い光が――すっと伸びた。


ユウト

「っ……!」


だが光はすぐに消え、何事もなかったかのように闇へ溶けた。


リゼリアは小さく息を吐く。


「……どうやら、“今日はここまで”のようだな」


ユウト

「いやいやいや、なんでその言い方……!」


「焦れば罠にかかる。

 敵がいるとすれば、あの光こそが“兆し”。

 だが、まだ形を成してはおらぬ。

 急ぐ必要はない。警戒を続ければよい」


落ち着いているというより、状況を読み切っているというべきか。

王国使者は伊達じゃない。


ユウトは深く息をついた。


「……とにかく、裏口だけじゃなくて、床も監視しないとダメだな」


「うむ。

 そなたの世界では“監視機器”があるのであろう?

 明日、導入するがよい」


「そうか。それなら――」


そこで、リゼリアはそっと視線を逸らした。


ほんの少しだけ、言いにくそうに。


「……その、ユウト殿。

 今日は……よく働いたな」


「えっ、あ、うん?」


「そなたがいて助かった。

 この店を任された時より――心強く思えた」


それは、素直すぎる言葉だった。


ユウトは顔を真っ赤にした。


「い、いや……リゼリアさんもめちゃくちゃ頼りになるし……

 あの……ありがとう。」


ほんの一瞬、二人の間にやわらかな沈黙が生まれた。


その静けさを破ったのは、

外のカラン、と鳴るベルの音。


――入り口の前に、誰かが立っていた。


魔法商会代理、ガルドだった。


昼間と変わらない柔らかな笑みを浮かべながら、こう言った。


「少し……お話できませんかな、店主殿?」


ユウト

「店主じゃない! バイトです!!」


ガルドの目が、ふっと細くなる。


「では、“裏口について”。

 聞きたいことがありましてね」


その瞬間――

リゼリアはユウトの前に立ち、空気が一変した。


戦いは、もう始まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ