開店初日、異世界コンビニ戦争(前半)
店内に押し寄せた客の波は、完全に“暴風”だった。
「ユウト殿! 五名ずつだ、五名ずつ入れるのだ!
押すな! 押してもツナマヨは増えぬ!!」
リゼリアが金色のマントを翻し、客たちを整理している。
王国広報局の姫巫女として鍛えられた声量は伊達ではない。
それでも――押し寄せる客の熱気は異常だった。
「ツナマヨはどこだぁぁ!!」
「焼きそばパンは!? 王国騎士団に差し入れしたいんだが!」
「オレは“冷凍から揚げ”とやらを買いに来た!!」
「うわぁああん!! もう棚のツナマヨなくなってるぅぅ!!」
開店5分で、おにぎり棚は壊滅。
ユウトは肩で息をしながら、追加の商品を背負って走り回る。
「ちょ、ちょっと落ち着いて! まだバックヤードにストックありますから!」
「ストック!? ストックだと!?」「どこだ!?」「どけッ!! 私が先だ!」
「バックヤードは入っちゃダメ!!!!!」
ユウトの悲鳴が店内に響く。
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■ 王都商人の刺客、現る
そんな騒ぎの中、ひときわ落ち着いた足取りで現れた人物がいた。
高級なローブをまとい、杖を持つ中年の男。
「お初にお目にかかる。
私は“魔法商会”が代表代理、ガルド=ファンデールと申す」
ユウトはレジに商品を並べながら、ぎょっとした。
(魔法商会…!? 王都最大の商業ギルドじゃん…!
なんで初日に来るの!?)
リゼリアがマントを翻して、男の前に立つ。
「貴殿らの目的は何だ。まさか客として来た、とは言うまいな?」
「ほぅ。さすが王国使者殿、話が早い」
ガルドはにこやかに微笑むが、その目は全然笑っていない。
「我々は“調査”に来ただけです。
王都に生まれた新たな商業の潮流を、見極めにね」
リゼリアは一歩も引かず、凛とした声で答える。
「商売敵として来たのなら、心得よ。
Midnight Martは――王都の民に“選ばれた”。
もはや後戻りはできぬ」
「ほう…これは手強い」
ガルドは薄く笑い、レジに置かれた商品を手に取る。
「ふむ、“おでん”と書いてありますな。これは一体どのように――」
「勝手に開けないでください!!」
ユウトが全力で止めた。
(おでん開封すんな!! つゆこぼれるだろ!!)
ガルドは肩をすくめ、レジに戻す。
「しかし……なるほど。
これほどの品を揃えてこの価格。
さすが“異界の店”と噂されるだけのことはある」
リゼリアの眉がわずかに動く。
「異界……? その単語、どこで聞いた」
「さぁ、どこでしょうな」
ガルドは穏やかに笑いながら、店の奥――バックヤードの方をちらりと見た。
ほんの一瞬、しかし確かに。
ユウトは気づいた。
(……なんでバックヤード見た?
まさか、裏口のことを…?)
だがガルドはそれ以上何も言わず、会計を済ませると去っていった。
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■ そして、戦いは静かに始まる
「リゼリアさん……魔法商会って、絶対なんか企んでるよね?」
「うむ。
あの者は、品を見る目も、商機を嗅ぎ分ける鼻も、鋭き蛇の如し。
“調査”と称していたが……実際は“敵情視察”だ」
ユウトは肩を落とす。
「ただでさえツナマヨ信者で大わらわなのに、
今度は魔法商会まで…
コンビニの仕事ってこんなにハードだったっけ?」
「案ずるな。ゆくぞ、ユウト殿。
まだ昼のピークが来ておらぬ」
「まだ来てないの!?」
――戦いはまだ始まったばかりだ。
Midnight Mart王都支店の運命は、今日決まる。




