開店初日、異世界コンビニ戦争(プロローグ)
王都の夜明けは、祭りの余韻をまだ少しだけ引きずっていた。
石畳には紙吹雪が散らばり、遠くの方で子どもたちが昨夜のくじ引きの景品を自慢し合っている。
その中心で、ひときわ目を引く建物があった。
Midnight Mart 王都支店。
つい昨日、盛大な開店前祭が行われ、王都の住民たちの期待は最高潮。
今日はいよいよ本番の――開店初日である。
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■ まだ静かな店内、ただし店員の心は平常じゃない
ユウトはレジ前で、深呼吸をしていた。
「ふぅ…祭りの日のあの勢い、絶対今日も来るだろ…絶対来るよな…?」
背後から金色のマントがふわりと揺れる。
「案ずるな、ユウト。我らは準備を整えた。
いかなる混乱も、我が導こう」
振り返ると、いつもの凛とした姿のリゼリアが立っていた。
銀髪は朝の光を受け、淡く輝いている。
「リゼリアさん…そう言ってもらえるのありがたいけど、
初日に100人並ぶコンビニなんて聞いたことないよ?」
「ふふ、王都の民は新しきものを好む。
ましてや“ツナマヨ”なる禁断の味を一度でも口にしてしまった者は――」
そこでリゼリアが、ほんの少しだけ真顔になる。
「――信仰に近い執着を抱くらしい」
「言い方が重い!!」
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■ 王都の外、ざわつく“信者たち”
一方その頃、店の外ではすでに長蛇の列。
「今日こそ買えるぞ…伝説の“ツナマヨおにぎり”…!」
「聞いたか? 祭りの日、中央広場で試食して泣いたやつがいたらしい」
「私の叔父上は三つ食べて意識を失った」
「それもう食べ物の反応じゃないだろ…!」
異世界人たちは完全にテンションがおかしい。
中には、祈りを捧げている集団までいた。
「――ツナマヨよ。この身に安らぎを…」
「ツナマヨの加護があらんことを…」
「え、なんか宗教始まってんだけど!?」
ユウトは窓の隙間から外を見て震えた。
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■ その中に“ひとりだけ妙に落ち着いた影”
行列の後ろのほうで、黒衣の男が静かに店を見つめていた。
ゼムナだ。
ただし今回は、騒ぐでもなく、呪文を唱えるでもなく。
ただ“観察している”。
「なるほど…王都における影響力は、この短期間でここまで…
面白い。実に面白い」
彼の視線は、店そのものではなく――
**店の裏手、例の“裏口の扉”**へ向けられていた。
王都支店にひっそりと設置された、異世界⇔現世をつなぐ秘密の通路。
ゼムナはそれを知らないはずだった。
にもかかわらず、
「……いずれ、あの扉の向こうを確かめねばなるまいな」
と、意味深に口元を歪めた。
(※伏線:ゼムナは“扉の存在”を直感的に察し始めている)
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■ 再び店内へ ― そして刻は来る ―
「ユウト、開店の刻が近い」
リゼリアが静かに告げる。
ユウトは震える指で腕時計を見た。
――AM 7:00
カチ、カチ、カチ。
秒針が12を指した瞬間。
「Midnight Mart 王都支店、開店です!」
リゼリアの声が響いた。
次の瞬間、
ドオオオオオオオオオオオッ!!!!!!
とんでもない人数が押し寄せた。
「リゼリアさん!? 入場規制!! 入場規制しよう!!」
「皆、落ち着くのだ! 一度に入れるのは二十名まで…っ、押すな! だから押すなと言っているッ!!」
――こうして、
ついに異世界コンビニ戦争の火ぶたが切られた。




