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おにぎり、異世界でバカ売れする

次の日。

 ユウトは、信じたくない気持ちを押し殺しながら、また裏口の前に立っていた。


「……昨日のアレ、夢じゃなかったんだよな」


 試しにドアを開ける。

 ――ギィィィ。


 やっぱり、そこには石畳の街。

 ランタンの灯り、パンの香ばしい匂い、そして——


「おおっ! 再び来てくださったのですね、商人様!」


 金髪の少女、セリアが満面の笑みで手を振っていた。

 昨日と同じ服装だが、今日は胸に「ようこそ!」と書かれた札まで下げている。


「いや、俺はただのコンビニ店員で――」

「存じております! “コンビニ”とは、異界の言葉で“神の屋台”のことですね!」

「ちがう。全然ちがう」


 セリアは興奮気味に、木のカゴをユウトに突きつけた。


「昨日いただいた“おにぎり”が、村で大人気なんです! もっと欲しいと皆が……!」

「……え、あれ食べたの?」

「はい! 中から“塩と海の香り”があふれ出て……あれはもう、幸福の味!」


 大げさに胸に手を当てるセリア。

 ユウトは、なんとなく冷蔵ケースを思い出した。


「……おにぎり、まだ在庫あったな」

 半額シール付きだけど。


 ためしに二つほど持ってきて、セリアに見せる。


「これだよ。鮭とツナマヨ」

「シャケ? ツナマヨ? 呪文のような……!」


 セリアは恐る恐る包みを開け、かじった。

 その瞬間――目が輝いた。


「ッ……な、なんという! 海の王が踊っている……!」

「踊ってないけど」


 通りすがりの衛兵まで足を止める。

「セリア、それは何を食べている?」

「これが、神の“オニギリ”です!」

「なんと……!」


 数分後。

 なぜかユウトの手には異世界の硬貨が握らされ、

 彼の前には行列ができていた。


「一人二個まで! 在庫に限りがあるから!」

「シャケを!」「いやツナマヨを!」

「両方だ!」


 ユウトは汗をかきながら袋詰めをする。

 セリアが横で嬉しそうに数を数える。


「これで村の祭りも盛り上がりますね!」

「祭り……? いや、俺バイト中なんだけどな……」


 そして夜。

 ユウトはレジ裏で硬貨を眺めた。

 金属の質感は明らかにこの世界のものではない。


「……これ、換金とかできるのかな」

 ため息をつきながら、ポケットにしまう。


 深夜のコンビニには、またチーンという音が響いた。

 温め終えた肉まんの湯気が、ゆらりと揺れる。


「ま、いっか。売れるなら悪くない」


 こうして、“深夜コンビニの裏口商人”ユウトの二重生活が始まった。

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