婚約破棄の末路
「お父様、申し訳ありません……」
「いや、お前は頑張った。 ……だが」
「わかっております、私も公爵家の娘ですので……」
「すまん……、儂も全てを終わらせたら……」
その日、ルーシア・クラマンズ公爵令嬢は自室のベッドの上で自らの胸に短剣を突き刺した。
翌日、トーマス・クラマンズ公爵は城に報告に来ていた。
「我が娘、ルーシア・クラマンズは昨夜、自らの手により命を絶ちその責を全う致しました」
「そうか……」
国王は沈痛な表情で公爵の報告を聞いていた。
「我が愚息が申し訳無い事をした」
「いえ、心変わりは仕方が無い事、しかし出来れば順序を踏んで下されば、とも思っております」
「そう思っても仕方あるまい、愚息の処分は儂に任せてほしい。納得のいく結果を出す」
「わかりました……」
しかし、公爵にその結果が耳に届く事は無かった。
トーマス・クラマンズ公爵は城から帰ってきた後、娘の後を追うように自室で毒を飲み息絶えていた。
遺書には『今は我慢出来てもいずれ国に対する不信感を持ち何をするかわからない、国に仇なす前に娘の元にいく』と書いてあった。
公爵が城を出た後、国王は王太子を呼び出した。
「ルーシア・クラマンズ嬢が昨夜、自らの命を絶った」
「……え?」
国王から言われ王太子は一瞬何を言われたのかわからなかった。
「お前は昨日、ルーシア嬢に一方的に婚約破棄を宣言したそうだな」
「は、はい……」
「何故、いきなり婚約破棄を宣言した? 儂にルーシア嬢との婚約に不満がある、と一言でも言ったか?」
「そ、それはその……」
「……お前が学園でお気に入りの男爵令嬢と2人きりでいる事は報告に入っておる」
「っ!? そ、それは……、そうですっ! 私は真実の愛に目覚めたんです!」
「だから婚約破棄を宣言した、と?」
「は、はい……、ですがルーシアは受け入れてくれました! それなのに何故自ら命を……」
「お前は王族の重さをわかっていないのだな、王妃になる者は王妃教育を受ける、その中には国の極秘事項も入っておる、つまりルーシア嬢は国の表も裏も知っている事になる。 その者を婚約破棄されて国外に出されたらどうなる?」
「それは……」
「もしルーシア嬢が婚約破棄に不満があったとすれば他国に情報を流出させる可能性もある。 それでなくても国の極秘事項を知った者をそのまま社会に出す訳にはいかない」
「え、それではルーシアは……」
「早かれ遅かれ儂は残酷な密命を出す事になっていただろう、……ただルーシア嬢は理解していたから自らケジメをつけた、ある意味国に忠義を尽くしたと言っても良いだろうが……」
王太子は国王の話を聞いて青褪めていた。
直接的では無いが自らの発言で婚約者を死に追い込んでしまったのだから。
初めて王族の重さを思い知った。
「わ、私はなんて事を……」
「それでだ、ルーシア嬢の命を犠牲にしてまでお前は真実の愛を全うしたいのか?」
王太子は首を横に振った。
「私は浅はかでした……、初めての恋に浮かれて自分が王族である事を忘れていました」
「そうだな、王族の責は極めて重いものだ。 結果的にお前はもう1人を死に追いやる事になるんだからな」
「えっ、……まさか男爵令嬢っ!?」
「あの娘は既に囚われておる。 王家に近づいたからには何かしらの目的があるだろうから厳しい拷問を受けているだろう」
ガタガタと震えだす王太子、自分の行動が2人の少女の命を奪う事になるとは思わなかったからだろう。
「王太子よ、お前にも罰を受けてもらわねば貴族社会に申し訳が絶たない、命には命で罰を受けてもらう」
「えっ、ま、まさか……」
「お前には毒杯を飲んでもらう、拒否権は無い」
国王の言葉に王太子は真っ白になりその場に倒れ込んだ。
「気絶しおったか、おい連れて行け」
「はっ!」
騎士達が倒れた王太子を連れて行く。
その後、王太子は自室で首を括り死んだ。
遺書には『王家として最後の責任を取る』と書かれていた。
「最後の最後に王家の自覚を持ったか、遅すぎるぞ……」
たった数日で何人もの犠牲を出してしまった。
それでも前に進まなくてはいけない。