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4話 主従契約

彼女を貴族の手から守る方法は2つある

1つ目はそのままシンプルに別の場所へ移動しながら逃げ回る

だがこれは時間稼ぎにしかならず、そもそも大した時間も稼げないだろう

2つ目は____


「主従契約…?」


「はい、俺と先に契約を結ぶことで貴族との契約をそもそも不可能にする、という方法です」


魔法契約は基本、重複して結べない

これは他ならぬ貴族達が決めた掟だ


それを逆手にとる。

これでひとまずは契約によって貴族が強制的にアオバを従える事は出来なくなるはずだ


「分かった、どうすればいいの?」


妹の服を取り出した棚を引き出す

中身を全て取り出してむき出しになった板底

そこに小さな穴が空いている

細い針をかませて引き上げる

板の下に二重に隠されたスペースには細かく区切られて"冒険者時代"のアイテムがしまってある


「これを使います」


そのうちの1つを取り出す

指にはめる対のリング

これが主従契約のアイテムだ

冒険者時代の最後のクエスト報酬でもらったものだ


こんなのもらってどうしろと…と当時は思ったがまさか今さら役に立つとは


「これにお互いの"血"と"名前"を刻んでリングをはめあうんです、このリング自体に魔力が込めてありますから、俺たちでも魔法契約が出来ます」


へぇっと夜空のような瞳がリングを覗き込む

元の世界ではなかったものなのだろうか


「…なんか…結婚指輪みたいだね!」


けっけけけ結婚…!?


「あ、え、え…?」


なんでいきなりそんな話に!


「あれ?こっちでは結婚した時、指輪交換の習慣とかはない?…私のいた世界では結婚したらお互いの薬指に指輪を贈り合うんだけど」


「ないです!!!」


なんだか一気に契約がしづらくなった気がする


____アオオオォオ--ン…


「え?なに?」


ビスの長く一度の遠吠え

貴族がもう来たのか


「…もう貴族が来ているようなので早く契約を済ませましょう!」


「う、うん!えっと、血と名前…だっけ?…って血!?血ってど、どうすれば…」


「これを使って下さい」


護身用のナイフを腰から抜き、目の前に置く

__が、手に取らない


「これで、血を出せと…?」


…嫌がっている、こんなの子どもでも出来るよくある血判契約なのだが

これも元の世界にはなかったのだろうか

それにしても、こんな状態で人を道具扱いするような貴族の元へ行こうと言っていたのかと思うとゾッとする


ともかく時間もないので「すみません」と一言断って手を取りそっと指先に刃先を入れる

浅く、血が滲む程度に


「__っ」


「…『主従契約の登録を開始』」


発動の言葉を唱える

年期の入った銀色のただの指輪がぼんやりと光を帯びはじめた


「…血をこのリングに押し付けながら名前を言って下さい、そして俺の指にはめて__」


ゆっくり言葉を追うように白く細い指がそのリングの一つに触れる


「森青葉…」


彼女が名前を呟くとリングに刻まれた魔方陣が回りながら浮かび上がる

それを映した彼女の夜のような目の中でキラキラ反射して星空のように瞬いている


一瞬リングを持つ手が躊躇する。

そして俺の左手をとって薬指を通った


…薬指は元の世界で結婚の意味なのでは…!?

これもわざとか…?


指の付け根まではめられるとリングに纏っていた魔方陣が少し大きかったリングと共に縮んで指に絡み付く

薬指から熱が全身に回り、やがて収まった


「次は俺が__…ジーフ」


同じように素早くリングに血を押し魔方陣が舞う

彼女の手をとるより前に

スッと白い左手が前に差し出された

よく見ると薬指が少し浮いている


ここに通せと言うことか…?


チラリと顔を見ると彼女は少しからかうような照れたような笑顔で「ほれほれ」と小さく薬指を上下させる


…やっぱり


いや、ここは彼女のいた世界ではなく、このリングにも、薬指にはめるのも、主従契約以外に意味はない

彼女も本気ではなさそうだし気にしなければ…


「……これで契約は完了ですね」


同じようにリングと魔方陣が彼女の薬指に絡み付く

…妙に緊張した


「ふふっ」


…顔に出ていたみたいだ


「…あまりからかわないで下さい…あ、そうだ、今後アオバではなく偽名を使った方がいいかと」


「え?なんで?」


「契約には今みたいに名前が必要なのですが今後何があるか分かりませんから…なるべく貴族に知られない方がいいので」


ここの生まれでないアオバの本当の名前を知っているのは俺だけだ

俺とアオバ本人さえ黙っていれば名前を必要とする契約や魔法なんかを回避できるかもしれない


「わかった!…でもじゃあなんて名前にしようかな…」


彼女に似合う名前…


「そういえば、アオバってどんな意味なんですか?」


「ん~っとね…あ、あれかな」


少し考えながら小屋を見渡して白い指が花瓶を指した

そこにはリーファの枝が入れられている

まるで木から切り離されたと思えないほど青々と葉が輝いている


「リーファ…ですか?」


リーファはここ大樹のダンジョン・ドライアドと繋がっていると言われている神聖な木だ


…うん、ドライアドに現れた妖精のような彼女には案外ピッタリかもしれない


「リーファかぁ~かわいい響きだね!どう?」


「ええ、いいと思います。俺もこれからそう呼びます、よろしくお願いします、リーファ」


さて、偽名も決まったところで…


____コンコンッ


突然扉を叩く音が響く


来た。

残すは、貴族との交渉だ____


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