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四話 主従契約

前回のあらすじ


半ば強引に異世界人を助ける事になったジーフ

貴族の手から逃れる為、彼女は交渉を提案するが…

逃げもせず、戦わず、彼女が考える貴族からの支配を逃れる方法。


それが…


「交渉…」


という名の“脅し”だ


つまりは奴隷にされるくらいなら死んでやる!せっかく召喚したのに死なれたくなければ自由を保証しろ!という事らしい。色々乱暴な作戦だな…


実際、貴族もそう出られるとその場は交渉に応じるだろうが…

彼らは俺達平民すら、対等に見てなどいない。

それだけでは不十分だ


「口約束ではすぐに裏切られて終わりです。もっと根本的に手出しが出来ない状態にしないと」


「…というと?」


そうだな。例えば…


「俺と、主従契約を結びましょう」


「主従契約…?」


主従契約とは魔石奴隷を従える為の魔法の契約だ


「確か…ここに」


もう一度、棚の中をまさぐる

中身を全て取り出してむき出しになった板底。

そこに小さな穴が空いている

細い針をかませて引き上げると板の下に二重に隠されたスペースが現れる。


細かく区切られたそこには“冒険者時代”の報酬が並んでいる


あれも、ここにしまっていたはず…


「あった」


そのうちの1つ、指にはめる対のリングを手に取る。


「これは契約の為に必要な魔道具です」


契約魔法具は属性問わず、スキルを持った冒険者なら誰でも使える。

本来は貴族が魔石奴隷を冒険者に貸し出す際に使うもので、報酬としてもらう事はないのだが。


なぜか最後のクエスト報酬でギルド長から贈られたものがこれだった。


冒険者ですらない今となっては、使い道がなく仕舞い込んでいたが、まさか役立つ日が来るとは…


「指輪…みたいだね」


「これで貴族より先に契約を結んでしまえば、そう簡単に奴隷にされる事はないと思います。貴族が貴女を奴隷にするには“奴隷契約”が必要になりますから」


「今度は奴隷契約…」


「契約は基本、重複して結べないんです。だから先に俺と契約しておくことで、そもそも貴族との契約が出来ない状態にしておこうという訳です」


これは他ならぬ、貴族達が決めた掟だ

それを逆手にとる。

これでひとまず貴族は、彼女と奴隷契約を結べなくなる


「なるほど。早い者勝ちという訳ね。…分かった。契約しよう!どうすればいいの?」


「これにお互いの"血"と"名前"を刻んでリングをはめあうんです。…まずは短剣、返して下さい」


「ん」


…あっさりと渡された

これで彼女が自死する手段…つまりは俺への“脅し”の材料はなくなってしまったが…


「それで、どうするの?」


…その事には気付いてはいなさそうだ

夜空のような瞳はリングを覗き込んで次の手順を待っている


俺は口約束を信じられないという話をさっきしたばかりだと思うんだが…

異世界人ってのは皆こんな感じなのか?


「…じゃあ、手を出してください」


「はい」


まるで警戒心がない


…きっと異世界人が貴族の手に渡れば、あっという間に取り込まれて、最後には…妹と同じように__


「?」


…だめだ。放っておけない

ほぼ強引に言わされたセリフではあるが、一度助けると言ったんだ。

彼女を守ろう。貴族から。


今度こそ____…





「…じゃあ、少し、切りますね」


差し出された指先に薄く刃を這わす


「__ッ」


声にならない小さな悲鳴が彼女から漏れると同時に、じわっと血が滲み出てくる


「…『主従契約の登録を開始』」


契約魔道具の発動詠唱を唱える

もう冒険者ではない俺に反応をしてくれるのか不安だったが、大丈夫そうだ


年期の入った銀色のただの指輪がぼんやりと光を帯びる


「…この血をリングに押し付けながら名前を言って下さい、そして俺の指にはめて__」


ゆっくり言葉を追うように白く細い指がリングの一つに触れる


「森青葉…」


彼女が名前を呟くとリングに刻まれた魔方陣が回りながら浮かび上がる

それを映した彼女の夜のような目の中でキラキラ反射して星空のように瞬いている


一瞬リングを持つ手が躊躇して、俺の左手の薬指を通った


「次は俺が__…ジーフ」


指先を切り、もう片方のリングに血を押しつける

同じように魔方陣が舞って


「はい」


スッと白い左手が前に差し出された

よく見ると薬指が少し浮いている


ここに通せと言うことか…?


その薬指にはめる

舞っていた魔方陣が縮んで、リングはまた年季のはいった銀色に戻る


これで契約は完了だ


「…なんか…結婚指輪みたいだね!」


「は…はい!?」


けっけけけ結婚…!?

いきなりなんの話だ!


「あれ?こっちでは結婚した時、指輪交換の習慣とかはない?…私のいた世界では結婚したらお互いの左手の薬指に指輪を贈り合うんだけど」


左手の薬指…


さっき俺にはめたのって…


「!」


左手の薬指にはしっかり銀色の指輪が巻き付いている

ア、アオバの方は…!


顔を上げると、左手の甲を向けてからかうように笑う夜空と目があった


「そ、そんな意味はないです!!!」


なんだか、からかわれてしまったようだ


____アオオオォオ--ン…


「え?なに?」


突然、外で遠吠えが響き渡る

ビスの声だ。貴族がもう来たのか


「…もう貴族が来ているようですね。本当はもっと作戦を練りたい所ですが…」


そんな時間はなさそうだ


「…アオバ、貴族が来たらとりあえず、交渉は俺に任せて下さい。後、今後は偽名を使った方がいいかもしれません。もう俺と契約しているので大丈夫だとは思いますが…契約には“名前”と血が重要なので」


ここの生まれでない彼女の本当の名前を知っているのは今は俺だけだ

なるべく避けられる危険は避けておきたい


「わかった。…でも、なんて名乗れば」


彼女に似合う名前…か


見慣れた殺風景な室内を見渡す

テーブルの端に置かれた白い指が花瓶が目に入る


「リーファ…」


そこにはリーファの枝が入れられている

まるで木から切り離されたと思えないほど青々と葉が輝いている


リーファはここ大樹のダンジョン・ドライアドと繋がっていると言われている神聖な木だ


…うん、ドライアドに現れた妖精のような彼女には案外ピッタリかもしれない


「リーファはどうですか?」


「リーファ…リーファ__うん。いいね!これからはそう名乗るよ」


さて、偽名も決まったところで…


____コンコンッ


突然扉を叩く音が響く


来た。

残すは、貴族との交渉だ____


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