表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/42

5 新作のゼリー

 休憩を終えて店内に戻った俺は、目の前の光景に思わず立ち尽くした。


「……なにこれ?」


 店内には客の姿は見当たらず、窓際の席に“何か”がぽつんと座っている。


 透明でぷるぷるした、まるでRPGに出てくるスライムみたいなやつが、ちょこんとテーブルに乗っていた。


「いや、スライム…?」


 恐る恐る近づくと、テーブルの上にはストロベリーシェイク。

 ストローが刺さったまま、シェイクは半分ほど減っている。


「まさか…これ、飲んだのか?」


 スライムは俺を見上げて、体がじわじわとピンク色に染まった。


「ぷるん♪」


「色、変わった!?」


「……新作のゼリーだ。」


 低い声に振り向くと、厨房から黒崎さんがひょっこり出てきた。

 いつもの無表情で、制服もピシッとしている。


「ゼリー…?」


「……吸収力が高い。」


「いや、吸収しすぎでしょ!」


「ぷるぷる〜♪」


 スライムは小さく跳ね、ピンク色の体をぷるぷると揺らしている。

 黒崎さんは「問題ない」とでも言いたげに、静かに頷いた。


「どうしたの、拓海くん?」


 店長がふんわりと出てきた。

 手にはマグカップを持って、のんびりした足取りだ。


「店長、これ…生きてますよね?」


「まあ、最近のゼリーは“生”が売りだからね。」


「生…ゼリー!? いやいや、どんだけフレッシュなんですか!」


「うん、生命力がね。」


「食べ物に求めないで、その生命力!」


「……食べると、元気が出る。」


「いや、元気っていうか、レベル上がりそう…」


 黒崎さんは真顔のまま、ちらっと店長の方を見る。

 店長は「大丈夫、大丈夫」とばかりに、うんうんと笑顔で頷いているけど、なんか目が泳いでないか?


「ぷるぷる〜♪」


 スライムは「イエス!」と言わんばかりに、ストローをちゅーっと吸い、さらに濃いピンク色に変わった。


「いや、普通に飲んでるし!」


「かわいいね〜。」


 店長はにっこり笑って、スライムの頭(?)をそっと撫でた。

 スライムは嬉しそうに体をぷるぷる震わせる。


 その時、エアコンの風がスライムに直撃した。


「ぷる…?」


 スライムは一瞬でカチコチに固まり、まるで氷菓のようになってしまった。


「え、凍った!?」


「……室温に弱い。」


 黒崎さんは無表情のまま、リモコンを手に取ると、何度もボタンを押して温度設定を変えている。


 スライムはテーブルに「シャラッ」と音を立てて、小さな透明の結晶を置いた。


「……これ、魔石じゃない?」


「最近は“マジック決済”が主流だからね〜。」


「いや、ファンタジー経済入ってるじゃないですか!」


「ぷるぷる〜♪」


 スライムは満足げに「ぷるん」と鳴き、カチコチのまま椅子にちょこんと座っている。


「ねえ、これ普通のカフェですよね?」


「もちろん、うちは“どんなお客様”でも歓迎だから。」


「……どんな?」


「人間も、動物も、モンスターも。」


「いや、モンスター入っちゃってるじゃないですか!?」


「……問題ない。」


 黒崎さんは小さく呟き、また厨房へ戻っていった。

 店長は「問題ないよ〜」と笑っているけど、カップを持つ手が震えているのを俺は見逃さなかった。


「いやいや、問題しかないでしょ!」


 俺のツッコミは、スライムの「ぷるぷる〜♪」というハッピーな声にあっさりかき消された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ