36 興味津々
店のドアを開けた瞬間、カフェ・オブ・レストのほんわかした空気が広がった。
いつも通りの温かい雰囲気だが、今日は俺だけじゃなく、結衣さんも一緒だ。
「へぇ、ここが拓海くんのバイト先なんだ。なんか思ってたよりちゃんとしてるね」
結衣さんは、ふわふわのぬいぐるみをぎゅっと抱えながら、まるで探検するみたいに店内を見渡している。
「いや、結衣さん、どういうイメージだったんですか? ちゃんとしてますよ、そりゃ」
「だって、拓海くん、いつも“普通のカフェじゃない”って言ってたからさ」
「それは……まぁ、いろいろあるんですよ、うん」
「おっ、拓海くんおかえり〜……って、あれ? 可愛い彼女さんも一緒?」
レジ横から、店長の真中さんがひょこっと顔を出した。
相変わらず、ふわふわした笑顔を浮かべている。まるで人間界に舞い降りた雲みたいだ。
「え、えっ!? 彼女!? いやいやいや、違いますって!」
「ち、違いますよ! 私たち、ただの先輩と後輩ですから!」
俺と結衣さん、ほぼ同時に声を上げてしまい、お互いにハッと目を見合わせた。
思わぬシンクロに、なんとも言えない気まずい空気が流れる。
……やばい、なんかめちゃくちゃ恥ずかしいぞ。
俺、顔赤くなってないよな? 赤くなってると思われてたらどうしよう。
ふと隣を見ると、結衣さんもぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、頬を少し赤らめているように見えた。
まさか、結衣さんも同じ気持ち……? いや、違う違う! 考えすぎだってば、俺!
気まずい沈黙が流れる中、俺たちはどちらともなく視線をそらした。
いや、絶対変に見えただろ、これ……。
「こんにちは、結衣です。今日は拓海くんのお手伝いに来ました」
結衣さんは、何事もなかったかのように店長に向かって挨拶をした。
その声はいつも通りに聞こえるけど、耳のあたりがほんのり赤い気がする。
「お手伝い? あれ、今日はお客さんとして来るって聞いてたんだけど〜」
「佐々木さんにお願いされたんです。少しでもお店の役に立てたら嬉しいなって思って」
「そっか〜。じゃあ、今日はよろしくね〜」
店長はふわふわした動きでレジに戻ったが、特に何かするわけでもなく、ただレジを見つめている。
いやいや、仕事してくださいよ!?
「ふふっ、店長さん、のんびりしてて可愛いね」
「いや、結衣さん、あれでこの店のトップですからね? ちゃんと働いてほしいんですけど!」
そのとき、カツン、カツンとヒールの音が響いた。
「おやおや、拓海くん。“ラッキー先輩”をやっと連れてきたのね。まあ、合格ギリギリってとこかしら?」
佐々木さんがメモ帳をパタパタと叩き、鋭い目で俺たちを査定している。
「こんにちは、佐々木さん。今日はお手伝いさせていただきます」
結衣さんが、にこっと柔らかく微笑むと、場の空気がふんわりと和んだ。
丁寧に頭を下げるその仕草も、優しさがにじみ出ていて、思わず見とれてしまう。
「ふーん、確かに“癒し系マドンナ”って呼ばれるだけはあるわね。でも、それだけじゃ困るのよ?」
佐々木さんは、メモ帳を指でトントンと叩きながら、結衣さんを興味津々に見つめている。
その目は、まるで宝の原石を見つけたようにキラキラしていた。
「えっと、私、そんなに運が良いとか、自分ではわからないんですけど……」
結衣さんは、ふわふわのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、きょとんとした表情を浮かべている。
「自覚がないの? でも、あんた“自販機の当たりが出る率が異常に高い先輩”とか、“行列に並ぶと待ち時間が短くなる先輩”って言われてるじゃない!」
佐々木さんは、期待に満ちた声を上げ、メモ帳をトントンとさらに早く叩いている。
その姿は、いつもの彼女からは想像できないほどの興奮ぶりだ。
「そ、そんなこと……あ、でも、このクマのぬいぐるみも、ガラポンで当たっちゃって……」
「やっぱり! あんた、無意識に“ラッキー”を引き寄せてるのね! すごい、すごいわ結衣さん! まさに天然の“ラッキーマシーン”じゃない!」
「え、でも、普通に回したら、たまたまポロッと出てきちゃって……」
結衣さんは、クマのぬいぐるみを見つめながら、まるで「どうして君が出てきたの?」とでも話しかけているようだ。
「うちの店にこんな逸材が来るなんて……! これで“ラッキーオーラ”を店に振りまいてくれたら、売上も右肩上がり間違いなしね!」
「は、はい! 頑張ります!」
結衣さんの素直な返事に、佐々木さんはメモ帳をギュッと握りしめて、まるで“勝利”を確信したかのような笑みを浮かべていた。
いや、佐々木さん、目が“ジャックポット”狙ってる人のそれですけど!?




