16 何このオーラ
「たくみん、見て見て〜!このカフェ用のポスター、ポップでかわいい〜♪」
「うん、これなら“普通のカフェ”でも使えそうだね」
今回は「絶対に普通のものを買う」って店長に言われてるから、こはるんの“かわいいモード”を抑えるのに必死だ。
「ねえねえ、これも見ていい?」
「もう、次はどれだよ…って、こはるん?」
こはるんはガラスケースの中に並んだアクセサリーに夢中だ。
その目はまるで宝石のようにキラキラしている…って、あれ?
「おい、こはるん…目、どうした?」
「ん? なになに〜?」
「いや、瞳…なんか、縦長になってない?」
「え、ええっ!? そんなわけないよ〜!普通の女の子だもん!」
こはるんは慌てて目をパチパチさせている。
…いやいや、今確実に“猫の目”みたいになってたぞ?
「ほ、ほら、見て! ちゃんと丸いよ〜♪」
「う、うん…」
いや、今戻ったけど絶対変だったよな!?
俺はゴシゴシと目をこすったけど、こはるんはいつものキラキラお目目に戻っている。
気のせいだったのか? それとも俺が寝不足で変なもの見たのか?
「ねえ、たくみん、これもかわいくない?」
「あ、ああ、うん…」
さっきの違和感を引きずりつつ、こはるんの隣に立つ。
彼女はピアスやネックレスを見つめて、目を輝かせている。
「わ〜、キラキラしてる〜♪」
「そんなに好きなんだね、アクセサリー」
「うん! お宝って、やっぱりロマンだよね〜♪」
「お宝!?」
こはるんはハッとして口を押さえた。
「え、えっと…“お得セール”って意味だよ!」
「いや、今“財宝を守るドラゴン”みたいな言い方してなかった?」
「し、してないしてない!私は普通の…普通の女の子ですっ!」
こはるんは額にうっすら汗を浮かべて、ひたすら笑顔をキープしている。
その笑顔が逆に怪しさ満点なんだが?
「たくみん、次はあっち行こ〜!」
「ちょ、引っ張るなって!カートが暴走する!」
こはるんは俺の腕をグイグイ引っ張り、なんとか話題を変えようとしているのが丸わかりだ。
その必死さが、逆に怪しさ100倍増しなんだけど…。
「ねえ、こはるん、本当に普通の女の子だよね?」
「も、もちろんだよ〜!ほら、ちゃんと…人間だもん!」
「そこ、“女の子”じゃなくて“人間”って言ったよね!?」
「えへへ〜、気のせい気のせい♪」
こはるんは無理やり笑っているけど、目の奥にチラチラと縦線が見える気がする。
「たくみん、ほらほら〜!次はクレープ食べよ〜♪」
「え、クレープ!? ちょ、待て、話をそらすなって!」
俺の疑問は、彼女のクレープ熱にかき消され、結局うやむやになってしまった。
…いや、マジで何者なんだよ、こはるん。
俺の「普通の買い物」計画は、今日もぶっ壊れたままだ。
*
たくみんとショッピングモールを歩いていたら、雑貨屋の前で足が止まった。
かわいい花柄のマグカップを手に取って眺める女性—— なんか、すっごく雰囲気がある。
「ん〜、これ可愛いなぁ」
ふわっとした微笑みと、自然な仕草。
いやいや、マグカップ持つだけでこのオーラ何!?
「こはるん? どうしたの?」
「えっ? あ、いや…」
私がぽかんとしていると——
「あ、拓海くん?」
えっ、知り合い!?
「えっ、結衣さん!? 偶然ですね!」
たくみんの顔が、一瞬でぱぁっと明るくなった。
——おい、デレるの早すぎだろ!?
「ほんと偶然だねぇ。誰かと一緒かと思ったら、女の子だったんだね。邪魔しちゃったかな?」
「あっ、いえ! こはるんはバイト仲間で!」
「そっかぁ。初めまして、結衣だよ。よろしくね」
「は、はじめまして! こはるんです!」
私が慌てて名乗った瞬間、頭の中で何かが繋がった。
——結衣さん!? たくみんの寝言の “結衣さん”!?
「…………」
私はたくみんの顔をガン見する。
たくみんは「あっやべ」みたいな顔で目を逸らした。
—— いやいやいや、アウトでしょ!?
「結衣さん、買い物ですか?」
「ん〜、特に何も決めてなかったけどね。このマグカップが可愛くて」
そう言って、結衣さんは手に持っていたマグカップをたくみんに見せた。
「シンプルで素敵ですね。結衣さんに似合ってます」
「ふふっ、そう?」
結衣さんがくるっとマグカップを回す。
—— ちょ、たくみん、顔ゆるみすぎ!!
「こはるんも、こういうの好き?」
「えっ!? あ、うん、かわいいと思います!」
私は慌てて頷く。
「よかった。私だけかな〜って思ってたから」
ふわっと微笑む結衣さん。
いやいや、これは確実に “寝言の結衣さん” だよね!?
「ねぇ拓海くん、バイト楽しんでる?」
「えっ? あ、まあ、その…楽しいです!」
「そっか、ならよかった」
たくみんは「はい!」とか言って、めっちゃ嬉しそう。
私はその横でじぃ〜っとたくみんの顔を見つめる。
「じゃあ、またね」
結衣さんは軽く手を振って、お店の奥へ歩いていった。
私はすかさずたくみんに詰め寄る。
「ねえ、たくみん」
「な、なに?」
「……やっぱり、寝言の結衣さんって、あの結衣さん?」
「ち、違う! そんなわけ…!!」
「ふぅん?」
たくみんは顔を真っ赤にして目を逸らした。
「……“結衣さん…そのマグカップ、2人用ですか…?”」
「うわああああ!! 言うなああああ!!!」
私はたくみんを揺さぶりながら、その反応を楽しんでいた。