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part6

皇紀2735年(西暦2074年)、福岡第4ダンジョン『竹』


この日、輝はダンジョンに赴いていた。といっても、探索者ライセンスを取得したばかりなのでいきなり第3などのレベルを攻略とはならず、初心者が自己責任で潜ることのできる最大ランクである第4ダンジョンに来ているのだが。


「ふふふ、鈍った実力を早く取り戻さないと。でも、銃の改造が出来ないとはなぁ」


輝が手にしているのは、民間向けに製造されている一般的なライフル銃である。前世の銃とさほど差のない銃ではあるが、前世では改造をしまくっていたのに対してこちらはノーマルであり中身は別物。

よって前世よりも威力はずっと下がる・・・のだが。


「よっと」


放たれた弾丸はゴブリンの頭を正確に捉え、一撃で葬った。


「ふう、初速が落ちるとはいえ弾は昔と同じだし、これくらいなら余裕かな」


弾頭と薬莢に別々の魔力を付与する技術は引き継いでいたため、ゴブリン程度ならイけるようだ。


しかし今の輝は、勇呀の記憶しか持っておらず、アラタの記憶というものは持っていない。ただ、断片的によく分からない記憶として残っているものもあるが、基本的には勇呀としての記憶しかない。そのため、この弾丸に関する技術もできるということは分かるがどうしてその考え方に至ったのかは覚えておらず、「できるもの」と思っていたりする。


「流石に上層・中層まではいけるかな。下層まで行くとちょっときついか・・・?」


落ちた魔結晶を全て拾いながら進む輝。ソロプレイにもそろそろ飽きて来た頃(ソロだけに、なんちゃって…アッチョ、ヤメ)のこと。


「ん?あれは・・・」


視界の奥の方、影でしか見えないような距離に違和感を感じた輝。あやしがりて寄りて見るに、どうやら他の探索者が戦っていたようだ。


(加勢した方がいいかな?でも邪魔するのもなぁ。・・・って、あれは)

「ゴブリンロード!?なんでこんな浅いところに」


ゴブリンロードとは、読んで字のごとくゴブリンを率いるリーダー的存在である。通常のゴブリンに比べ知能がやや高く、様々な戦略を用いて来る厄介なモンスターである。本来は第4ダンジョンにおいては下層でのみ目撃例があるモンスターで、上層にいるというのはありえないことである。


「まずいな。探索者の人も押されてるみたいだし、援護しないと」


この行動が、今後の輝の運命を大きく変えることとなる。


──────────────

時を戻して、輝が『竹』ダンジョンに潜ったばかりの頃。1人の少女が同じく『竹』ダンジョンに潜っていた。


「はいっ!」


手にした無骨な片手剣を装備し、流れるような動作でモンスターを切り伏せる少女。


「ふう。みんなー、どうだったー?」


:サキちゃん最強!

:つおい

:E級探索者のままだと勿体ない才能

:強くて可愛い!


「えへへ、買いかぶり過ぎだよ〜。ありがとっ!」


サキちゃんと呼ばれていた彼女は、中野美咲(なかのみさき)。ダンジョン専門配信サイト「DSing」(Dungeon Streamingを略した名前)で人気急上昇中の配信者である。


そんな彼女は駆け出しにありがちな、背伸びして無理な探索をした結果痛い目を見るということはせず、自身の身の丈に合った探索をしている。このことも多くの視聴者から支持されている理由でもあるのだが、ダンジョンとは常にイレギュラーが起きることを想定しなければならない。

例えば、本来下層にしか出現しないはずのゴブリンロードがゴブリンの軍勢を率いて現れるなどである。


----------


「はあ、はあ、おりゃっ」


今の1振りで、さらに一体のゴブリンを葬った。しかし、まだまだゴブリンは襲来し、上位種も健在。多勢に無勢、このままでは敗北である。


:誰か来てくれー!

:推しの死に際なんて見たくねぇよ・・・

:誰か他に潜ってる人いないの!?

:いやだいやだいやだいやだいやだ

:この配信見てる奴、誰か行けないのか!?


コメントも大混乱であり、阿鼻叫喚。このまま為す術なし・・・と思われたその時。


パァン!ドゴォ!


「ふぇ?」


どこからともなく放たれた1発の弾丸がゴブリンロードの頭部を粉砕した。


:は?

:なにがおきた?

:ゴブリンロード1発?

:は?

:は?


美咲もコメントも、リーダーを撃たれたゴブリンすらも鳩が豆鉄砲をくらったようにポカンとしていた。

そして指揮官を失ったゴブリンは慌てふためく。


「な、なにが起きた…の?」

「大丈夫ですか?」


突然現れた1人の女性。美咲はそう認識した。


「え、ええ・・・今のはあなたが?」

「そういうのは後!今はこいつらをなんとかしないとですよ」

「そ、そうね」


配信中であることも忘れ、素のテンションで答える美咲。しかしそれを認識できるほど落ち着いた視聴者もいなかったのでバレることはなかった。


女性(輝)が全く苦戦することなくゴブリンを倒していく姿に触発され、安心するのはまだ先だと気合を入れた美咲も奮闘。数分後にはゴブリンを一掃した。


「終わった〜」

「た、助かったんだ・・・」

「良かったですよ、無事で。これでダメだったら僕しばらく鬱になりますから」


:あんなことしといて何を言うやら

:ゴブリンロード一撃で屠った奴が何をいう

:てかこのこ誰?

:知らん

:マジでわからん。配信者でも無さそうだし

:あの実力あるなら多少名前知られててもおかしくないのに

:とりあえずサキちゃんが無事で何より

:それもそうだな


「先程はありがとうございました。あなたが来てくれなかったら、私今頃どうなってたか」

「まあ、良くて即殺、最悪苗床でしょうね。まあそんな未来は想像しない方がいいですよ」

「なえっ・・・///」


想像してしまったのか、真っ赤になる美咲。


「そ、そういえば!あなたの持ってるそれ、銃ですよね?なんでモンスターに聞いてるの?」

「輝でいいですよ。これは、薬莢の部分に少し魔力を注入して、撃った時の速度を上げてるんです。そしてこっちの弾頭には色んな属性の魔力を注入して、モンスターに効くようにしてるんですよ例えば、氷属性で凍らせたり、炎属性で燃やしたり、爆発させたり」


:すげえなこの女の子

:銃ってモンスターに効くんだな

:本来は効かないはずなんですがねぇ

:てかこの子しれっと2属性付与してるやん

:マジやん。歴史覆るぞ

:↑なんで?

:そっか、今の子たちは知らんのか

:時代を感じる

:悲しいなぁ

:結局なんでか答えてなくて草


「へえぇ、輝ちゃんってすごいわね」

「あ、僕は男なので君か呼び捨てでいいですよ?」

「へ?」


:へ?

:へ?

:男の娘きちゃあぁ

:男の娘だあぁぁ

:女の子だと思ったわw


「あと、今言ったことが世間にバレると面倒なので、内緒にしてくださいね?」


:あっ

:あっ、スゥー

:草

:ワロタ

:配信中ですが何か?

:残念、世間にバレちった☆

:よし、俺たちの秘密にしよう

:そうだな


「・・・ごめんなさい輝くん」

「なんですか?・・・そこはかとなく嫌な予感がするんですが」

「配信、切ってなかった」

「・・・え?配信って、あの配信?DSingの?」


首を縦に振り、「うん」と頷く美咲。


「・・・終わった〜」

「ごめんなさい!」


魂が抜けたように座り込む輝と、何度も謝る美咲。そしてそれを見守る視聴者という、何とも気まずい雰囲気が流れた。

ちなみに、輝は美咲が配信中であったことに気づけなかったのかというと、50年前は動画が主流であり、配信というのは一般的ではなかったこと、第4ダンジョンという低レベルダンジョンに配信を付けて潜る理由がないと思い込んだことが挙げられる。


「めんどくさい・・・どうしよ・・・」

「わ、私も一緒に説明しますから!」

「うぅ・・・おねがいしましゅ」


:キュン

:可愛い

:かわいい

:なんか色々とどうでも良くなったかも

:この可愛さに免じてそっとしてあげて・・・

:可愛いだろ?男の子なんだぜ、彼

:可愛いは性別を超える

:男の娘だっ二度と間違えんな

:過激派で草


────────────────

迷宮省福岡支部・長官室


「お二方、こんな時間に呼んでしまい申し訳ないです」

「いやいや、問題ないさ」

「私も問題ないわ」


夜、支部の営業が終了し職員も帰宅する者が表れだした時間に集められたのは、繁樹と光莉である。


「ありがとうございます。早速ですが、こちらの映像をご覧頂きたい」


そう言った長官が差し出したノートPCに映っていたのは、美咲の配信のアーカイブだった。


「これは・・・」

「いかがでしょうか?私としましても、簡単には判断できず・・・」

「ああ、そうだろうな。ありがとう、相談してくれて」

「滅相もない、このことに1番詳しいのはお二方でありましょうから」

「・・・いや、もう1人いるね」

「ああ、あの人のこと?」

「はあ、あの人とは・・・?」

「まあ、その人には僕から連絡しておくよ。とりあえず、この件は持ち帰らせて欲しい」

「勿論です。方針が決まりましたら連絡頂ければ」

「わかった」


そうして、「疾風迅雷」現役時代を知る者が集うことになる。

王道な展開をやってみるの巻

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