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part5

皇紀2735年(西暦2074年)、福岡県・国立ダンジョン博物館


九州のダンジョンについての資料やかつての探索者の装備品などが展示してあるこの博物館に1人の人物が訪れていた。


(これは・・・ああ、御門さんのか。懐かしいなぁ)


口には出さず心の中で懐かしむこの人物は、結城輝(ゆうきひかり)。長髪をうなじの辺りで纏め下ろすという『勇呀スタイル』の髪型が特徴的である。


(こっちは・・・あ、前世の僕たちだ)


そう、輝の正体は、転生した勇呀であり、勇呀に転生していた新でもある。


(皇紀2685年に発生した桜花ダンジョン事件において、根源の対処に成功しそのまま天へ召された伝説のパーティである──いささか誇張しすぎじゃないか?)


自分のした事を大きく表現され、むず痒い輝。するとそこに、


「おや、君も『疾風迅雷』の伝説に興味がおありかな?」


と、2人の男女がやってきた。


「失礼、自己紹介は自分からだったな。私は御神楽繁樹。元A級探索者だ」

「──あ、もしかして御神楽く・・・さんと八坂さんですか?」

「八坂は私の旧姓だな。今は御神楽光莉だ」


(なんと、御神楽くんと八坂くんが結婚していたとは。確かに、はよくっつけとは思っていたが。というか危なかった、つい御神楽くんと言いそうになってしまった)


「ああ、失礼しました。御神楽さん」

「良い良い。それよりも、疾風迅雷のことが気になるのかな?」


この2人が輝の知っている御神楽ならば、彼らは既に70近くなる。が、彼らの姿は若々しい。繁樹はまだまだ現役だとでも言わんばかりに筋肉の詰まった体つきをしており、顔も70近い人間とは思えない。そして光莉に関しては、どう見ても妙齢の女性と言う他ないような顔つきをしており、皺1つない。そして出るところは出て引っ込むところは引っ込むという抜群のスタイルを維持しており、そうと知らなければ恋に落ちる男が多いであろう。


「ええ、家族から彼らの話を聞いたものですから」

「そうかい。この人のことはどれだけ知ってる?」

「銃を持った()のことですか?そうですね、可愛らしい人かと」

「うーむ、君も同じ類に入ると思うんだが・・・まあいい。彼の持っている銃。あれは対モンスター用に改造が施された銃弾を使っていてね。惜しくもその技術は、失伝してしまっている」

「それは・・・なぜです?」

「彼しか出来なかったからだよ。何せ、これほど小さな薬莢と弾頭に別々の魔力を注ぎ、その状態で安定させるというのは至難の業だ。何人もが再現に挑戦したが、彼ほどの安定性を見せた者はいない」


(マジか。あの頃はそこまで難しいこととは思ってなかったけど・・・そんなに難しい技術だったか?)


----------

輝がそう思うのは、彼が転生前の記憶を持っていることに起因する。もともとこの世界では、1つの物体には1つの魔法しか付与できないというのが常識であった。かつては2つ以上の魔法を、という研究もあったが、どうしても安定させることが出来ず、研究は凍結。以降、現在のような常識が形成された。

この世界で生まれた人間は知識を持たずに生まれるため、教育の段階でその常識のみを知る。対して輝(勇呀)は、前前世(新)の知識を持って生まれた。そして彼は1つの物体に2つ以上の魔法を付与するという行為を漫画やアニメなどで知り、想像できるため、「いけるんじゃね?」という考えを持てた。

また、火薬に魔法を付与すると爆発するという、今でもメカニズムの解明されていない現象が発生することも弾丸に魔力を注入する技術が失われた所以でもある。

では彼はどうやったのか?それは、「空間に魔力を充填する」という、半ば無理矢理な方法である。

しかし悲しきかな、この世界の人々は「一定の密閉された空間に魔力を満たし存在させる」という考えを持つことは出来ておらず、故にその技術も模倣することが出来なかったのだ。


つまり、彼のしていたことはこの世界では常識破りであり、下手をするとまだまだ未来の技術である、ということだ。

----------


「そうなんですね。僕も、彼のような探索者になりたいなぁ」


なれるに決まっている。彼本人なのだから。

しかしおいそれとそのことを明かす訳にはいかず、あくまでも彼に憧れている1人の少年のふりをした輝。


「おや、君も探索者志望なのか?」

「繁樹、ここに1人で来ているのにそれ以外あると思う?」

「それもそうだ」


ガハハと笑う繁樹と、やれやれと首を振る光莉。それを見た輝は、


(変わってないなぁ、こういうところは)


と懐かしんだ。


「もし興味があるなら、彼らの相棒たちも見ることができるかもしれないね」

「本当ですか!?でもどこにも展示されてないですよね?」

「ああ、それはね。一般公開はしていないんだ。状態が結構面倒でね。それに、色々と手続きもしなければならない」

「な、なるほど」

(面白いと思ってたらめんどくさいってよ、博)

「だから、興味があるのなら私たちに連絡してくれればその手続きはしておこう」


その時、閉館を伝える放送が流れる。


『間もなく当館は閉館いたします。本日もご来館────』


「おっと、この続きはまた別の時にしよう。気をつけて帰るようにね」

「はい。ご親切にありがとうございました」


輝は退館し、館内にはスタッフらと繁樹たちのみに。



「・・・なあ、光莉」

「うん。不自然だな」

「そうだね。まずこの時代にあの年代の子が光莉のことを旧姓で呼ぶはずが無い」

「ええ。ご家族から教えられていたとしても、世間一般では御神楽と呼ぶはず」

「それに、勇呀さんの写真、それも名前などが一切書かれていない1枚を見て『彼』と」

「それはまあ、調べていれば知っていてもおかしくはないでしょう」

「でも彼、僕らと出会った時、『御神楽くん』と一瞬言った気がするんだ」

「それは・・・聞き間違えじゃない?私もあなたももう年寄りなんだから」

「そうなのかな。でも、あの人の生まれ変わりだったらいいね」

「そうね。私たちは、結局あの人たちに何も恩返しすら出来なかった」


1度結ばれた縁は切れず。時が経とうと世界が変わろうと繋がり続ける────。



────────────


「ねえ、勇呀」

「ん?どしたの澪?」

「勇呀って、なんでそんな可愛くなろうと思ったの?」

「そういや聞いたことなかったな。なんでなんだ?」

「う〜ん、そうだね・・・(言えない、前世でバ美肉見てて百合好きだったから可愛くなろうと思ったとか言えない・・・)」

「言いたくなかったら無理に言わなくてもいい」

「みんな詰めてくるじゃん!いや、別に言いたくない訳じゃないんだよ?ただなんて言うか、どう説明しようかと思って」

----------

勇呀がこうなった全ての始まりは、勇呀が幼い頃に遡る。

勇呀としての2度目の生を受けた新(以後アラタとする)は不自由なく成長していた。そして歳を重ねるにつれ、勇呀(アラタ)はあることに気づく。


(あれ?僕の顔つき、可愛くね?)


と。それが全ての始まりである。

前世では百合を好み、百合アニメや動画を鑑賞することが癒しであったアラタ。そしてバ美肉という文化にも触れたアラタの思考は歪みに歪んでいた。


(もし来世があるなら女の子になって女の子と恋がしたい。それが無理なら男の娘になって見た目だけでも百合百合したい)


と、最早手の施しようがないというか流石日本のオタクというか・・・。

そんな思考を受け継ぎ、更に肉体がおあつらえ向きレベルで可愛い寄りだったため、勇呀はその日から男の娘になることを決めた。

幸いにも勇呀の両親は「自分のやりたいことをやれ、サポートはする」という親ガチャSSRクラスの両親だったので、誰にも止められることなく男の娘の道を進んだ。更に、この世界ではエルフや獣人などの亜人との共存がなされていたことも幸いし、前世の日本よりもずっと多様性が認められており、可愛いを求める勇呀を異端と評する者はほとんど居なかった。(というか異端と罵る輩はファンになった老若男女からボコボコにされた)

しかしながら、あくまでも勇呀の精神は男であり、恋愛対象は女性である。そんな勇呀はいつしか、可愛いと格好いいの両方を兼ね備えた男の娘に。

周囲からは、「めっちゃ可愛いのに時々ぶっきらぼうになるののギャップがすごい」と大好評だった。

そんなこんなで探索者を志望し、疾風迅雷を結成し、今に至る。

----------

以上のことを、人に話せるレベルのことのみを掻い摘んで説明した勇呀。


「なるほどなぁ。俺みたいなゴリラには到底出来ねえな」

「やめてよ、博の女装姿想像しちゃったじゃない」

「なんで女装で想像してんだよ!?」

「そういうことだから、僕の恋愛対象は女性なんだ。ごめんね博」

「なんの謝罪だよ!?俺はお前にゃ恋心なんて芽生えちゃいねえよ!」


「可愛い勇呀以外は知らないけど、たぶん今の勇呀が1番いい」

「それはそうね。私たちに甘えるの嫌うけど、可愛いんだから甘えなさいよ。ほら、見た目は百合になるわよ?」

「だって恥ずかしいんだもん…」



笑いが置き、和気藹々とした昼下がり。疾風迅雷の日常は、こういったどうでもいい時間が大半である。


──────────────

「んぁ・・・夢か」


ベッドで目覚めた輝。時計は朝の9時を示しているが、今日は日曜日なので問題はない。


「懐かしい夢だったなぁ。・・・昨日博物館に行って、懐かしい顔を見て。だからかな?あんなどうでもいい、だけと大切な思い出を夢に見たのは」


果たして、転生したのが輝だけなのか、それとも博や澪、梓も転生しているのか。それは不明である。しかし、1度結ばれた縁は切れない。──そう、例え世界が変わったとしても──。

今回から、物語の本編とも言える「物語での現在」のお話が始まります!


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